青い夕暮れ「ブルーモーメント」に
自然光と人工光の変曲点を感じる

breadworksの店内。この 写真は日中のもの。

毎日のうんざりする暑さに私はすでに夏バテ状態であります。そんな苦手な夏でも、1つとても好きなのが夕暮れ時のブルーモーメントの時間です。ブルーモーメントは夜明け前と夕焼けの後のわずかな隙に訪れる、辺り一面が青い光に照らされて見える現象。季節によっては朝も見ることができますが、私は夏のカンカン照りの日の夕暮れのブルーモーメントが好きです。見ていると疲れを癒してくれる効果があるような気がします。

最近、特に印象に残っているブルーモーメントを見た場所は天王洲。運河を目の前にしたボードウォークからのアクセスが気持ち良い人気のレストラン「T.Y. Harbor brewery(ティー・ワイ・ハーバー ブルーワリー)」が、同店の隣で経営するベーカリーカフェ「breadworks(ブレッドワークス)」にて。こちらの照明の仕事をさせてもらってから3カ月経ったある夏の日、夕方の17:30過ぎに訪れました。T.Y.Harbor breweryのビール酵母を使ったビアブレッドやとても美味しいブラウニーを珈琲(おかわり自由!)と一緒に頬張り、店内の雰囲気を感じながら窓辺の席で一息ついていました。

設計 : KROW/長崎健一 氏+Verse/木田小百合 氏

天気の良い日中は差し込む光が気持ちよく、倉庫をリノベーションした店内ならではの天井の高さが心地よい空間です。

さて、18:00ごろから店内は、外光の影響もあり、若干青白い明るさの中、ゆっくりと表情を変えていきました。

19:30 ごろにはほぼ日没で、店内の照明の明るさも日中の半分くらいに絞られました。

そしてそのころ、窓辺から外を眺めていると、ブルーモーメントの訪れる気配が。

窓から見えるこの空の色がブルーモーメント。窓枠内から見る小さな空は切り取った絵画の一部のようにきれいでした。

深い青紫色の空が、沈む太陽の反射を受けて染まるのがブルーモーメント。だんだん周辺の灯りが点りはじめ、店内の空気も変わっていきます。このように外光の影響によって、採光面積の大小とは関係なく、室内の気配は変わっていきます。もちろん季節ごとにも変わります。人工の光である照明を扱う仕事をしていると、自然光とのバランスにより敏感になっていきます。そして同じ景色を同じ場所から眺めて、時間の経過を“気配”で感じるというのはとてもプリミティブなことでありながら、同時に人が本来持っている感覚を改めて研ぎ澄ますことができる小さなきっかけでもあると思います。(文/マックスレイ 谷田宏江 )

この連載コラム「tomosu」では、照明メーカー、マックスレイのデザイン・企画部門の皆さんに、光や灯りを通して、さまざまな話題を提供いただきます。