商品化への道のり
「ラ・ルース」【前編】

都内の中小企業とデザイナーとのマッチングを目的に、東京都が主催する「東京ビジネスデザインアワード」。まず、企業側が自社の持つこんな技術や強みを生かしてほしいとテーマを設定して応募。応募があったさまざまな企業のテーマの中から、デザイナーは協働してものづくりに取り組みたい企業に対して、商品のデザインだけでなくビジネスプラン全体のデザイン計画を提案する。それを受け、ビジネスデザインアワードの審査委員が新たなビジネスの創出が期待できる企業とデザイナーの組み合わせを選出、アワードを授与する。受賞した企業とデザイナーは提案の実現化に向けて協働作業を行っていくという仕組みだ。

昨年度は12組のマッチングが成立した。その1つ、優秀賞を受賞したラ・ルース(本社・渋谷区)とデザイナーの山田佳一朗氏は6月に開催されるインテリアライフスタイル展でのお披露目展示が決まっている。製品化に向けて最終段階にある製作現場を取材。アワードでの提案が実現するまでの過程を追った。

株式会社ラ・ルース 代表取締役 相田秀和氏(左)とデザイナーの山田佳一朗氏(右)

代官山に本社を置くラ・ルースは、木材から器・皿を切り出す「木地挽き」技法によるテーブルウェア製品を幅広く扱うメーカー。なかでも同社の強みは寄木を接着する独自の技術だ。古くから寄木細工が盛んな小田原に工場を設け、ケヤキ、ウォールナット、ヒノキの間伐材を寄木にして組み合わせ、ブロック材をつくり、そこから器の形を切り出す。この作業は無垢の木材から直接 器をくりぬくのに比べて工程が多く、手間も人件費もかかる。それでもあくまで寄木での製造にこだわるのには理由がある。寄木にしたほうが木の節にともなう資材のロスを減らすことになり、無垢材と比べて三分の一の材料でつくることができるからだ。ラ・ルースではこの寄木の技法と木地挽き技法を組み合わせたオリジナルブランド「kijihiki」の下、すでに数多くの木製テーブルウェアを出している。

▲小田原工場


そんな高い技術力を持つ同社が東京ビジネスデザインアワードによるマッチングで求めたのはブランド力の強化。「全く新しい商品の提案ではなく、すでにあるアイテム数の多い器に関して、われわれが持っている寄木の技術を強調してくれるように再編集してほしい。それを軸に、これまでわれわれだけではリーチできていなかった客層により訴求するように商品を少しリデザインするなど、ブランドの認知度を上げるためのアイデアを期待しました」とラ・ルースの相田秀和 代表取締役社長は言う。企業側からデザイナーへのテーマはこうして出されていった。(文/長谷川香苗)
後編へ続く


Photo by Kaori Nishida

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