商品化への道のり
「ラ・ルース」【後編】

企業秘密をあえて開示することで切り開くビジネスチャンス
ラ・ルースの持つ技術に可能性を感じ、マッチングの応募をしたのはデザイナーの山田佳一朗氏。応募のいちばんの決め手は1枚の板を重ねることで立体になるラ・ルースの技術にあった。既存の商品自体も斬新で、自分が新たにデザインをするよりは、それをどう見せていくかを提案することに力点を置いたという。「『kijihiki』の商品自体はよいのですが、それをつくっているすばらしい技術を視覚的に伝えるものがこれまでありませんでした。それは模造製品を防ぐためです。しかし技術のすごさを見せたほうが得策だと提案しました。そこで、伝える手段を洗練させていこうと考えたのです」。無垢材から切り出した場合に比べて木材の量が3分の1で済む。しかし作業の手間と人件費がかさみ、その結果、価格に跳ね返る。ならば、なぜ手間がかかり、コストがかかるのか、隠すことなく公開することで、それなりの価格になる理由を納得してもらえるはずだと山田氏は考えた。

さらに既存の「kijihiki」商品のリデザインに加えて、新たなブランド「ひきよせ」を導入することも提案。これは「kijihikiのブランドだけでは、挽きものの技術しか伝わってこない。寄木の技術も使われていることを伝えたい」という理由からだ。ターゲット層に向けたイメージをつくり上げるため、カタログに始まり、VMに関わるすべてのスタイリング、さらに既存のブランド内で多すぎる商品構成を見直すなど、商品のディレクションをトータルに行っていく。6月のインテリアライフスタイル展への出展を手始めに、今後は海外市場を視野に入れ、発信力のある海外の見本市への出展など、そうした戦略にも関わっていくと山田氏は語った。(取材・文 / 長谷川香苗)

▲一枚の間伐材(写真上段左)から何本もの角材を均一に削り出して(上段中)、それぞれを接着(上段右)。
接着した製材から同心円を抜いていく。(下段左)
同じ一枚の板から切り抜かれた円を積み上げると立体の器になる。(下段中)
一枚板に節や木割れがあったとしても、その部分の角材だけを除いたり、木割れの部分の角材を端に組むことで、廃棄する木材を最小限にとどめることになる。


Photo by Kaori Nishida

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