商品化への道のり
「石川金網」【前編】

都内の中小企業とデザイナーとのマッチングを目的に、東京都が主催する「東京ビジネスデザインアワード」。高い技術力を持つ企業と優れた課題解決力・提案力を持つデザイナーとが協働することで、新たなビジネスの創出を目指す事業提案型コンペティションだ。2013年度のアワードでテーマ賞を受賞したのが石川金網株式会社(荒川区)とプロデューサーの松田龍太郎氏とのマッチング。アワード受賞後、石川金網の持つ精緻な金網加工技術を生かした新たな素材「KANAORI」の開発が進むなか、その様子を取材した。

▲石川金網株式会社(東京都荒川区)

石川金網は金網を自在に加工する精緻な技で1922年の創業以来、日本の暮らしを支えてきた。扱う製品は自動車用換気部品から、フェンス、エアコンフィルター、マイクのヘッド、調理用フライヤー、ザル、茶こしまでと幅広い。

しかし、主力事業の産業用金網生産の多くが海外の工場に移行する昨今、新事業の立ち上げを目指して東京ビジネスデザインアワードに応募した。出した課題は「曲げ、折り、プレス、自由自在に成形可能な “金網加工技術”」。これに対して、提案を行ったのが、さまざまな分野でプロデュース事業を行う株式会社オアゾのプロデューサー、松田龍太郎氏。松田氏は「金属なのに布のように柔らかい金網の質感に驚き、金網に対して抱いていた工業製品のイメージががらりと変わりました」と語る。金網が工業製品以外のイメージとつながった。

▲石川金網株式会社 代表取締役社長 石川幸男氏(左)と株式会社オアゾ 代表取締役 松田龍太郎氏

金網ではない、布のような素材として

経糸・横糸からなる織物のように柔らかな石川金網の金網に可能性を感じて、松田氏はプロダクトデザイナーの中西香菜氏、グラフィックデザイナーの土屋勇太氏とともにアワードに応募。特殊な金網加工技術を生かして、最終製品ではなく、新しい“素材”として新事業の立ち上げを提案した。鉄だけでなく、アルミやステンレス、合成樹脂の網も製造する石川金網の特徴を引き出し、異素材同士を織り込んだ新たな網「KANAORI」の開発である。

自動車用フィルターやメッシュとして作られてきた金網が、バッグなどの服飾雑貨、あるいは壁面素材になるかもしれない。「KANAORI」の提案は、これまでメーカーからのオーダーに応えるのみ、という受け身のかたちで金網を作ってきた企業にとって主導権を握って自ら製品のアイデア、形を生み出すことにつながるもの。

石川金網の石川幸男社長は「モノをつくるとなると、そのモノで完結してしまいますが、私のようなビジネスの川上にいる素材メーカーとしては、川下への応用の幅がさらに広がりそうで、ありがたい」と提案を評価。マッチングへと結びついた。
(取材・文/長谷川香苗、写真/西田香織)

後編に続く。

東京ビジネスデザインアワードのホームページはこちら
KANAORIのホームページはこちら