AXIS175号より オピニオン
「アウグスト・グリッロ氏インタビュー」

現在発売中のAXIS175号のオピニオンにご登場いただいたヴィッラ・トスカ・デザインマネジメントセンター・グループ CEOのアウグスト・グリッロ氏。自らをデザインフィロソファーと位置付け、独自性溢れるデザイン活動を行ってきましたが、その活動の核となるのが「美」。

かつて地元の市長も務めるなど、多彩な活動を続けるグリッロ氏は日本でも学んだことがあり、日本語もペラペラ。グループ内企業の照明器具メーカー、ルーメンセンター・イタリアの日本での発売開始を機に、去る3月には東京でのライティングフェアに出展。同会場でインタビューしました。

記事からの抜粋をお届けします。

自らを「デザインフィロソファー」と名乗っておられます。

ものの色や形、素材を考えるデザインではなくて、人類学や社会学、心理学といった側面からデザインとその背景にある課題を捉え、コンセプトをつくっていくということです。デザインについて考え、評論・批評をするわけですが、そのためには「美」を理解し、自らの理論を持たなければ、デザインフィロソファーにはなれないのです。

先日『Beauty of Beauty』という本を出版されました。「美の根源とルーツを探し求めて」という副題がついており、従来から研究されてきた美について改めて語っておられます。

比喩的な例を出すと、美というのは私の頭の中ではタマネギのようなものです。タマネギにはいくつも層があって、いちばん外側にある層が自然の美。これは幾何学的なものでもあり、少ないエネルギーで最大のパフォーマンスを発揮する。自然が与えてくれる形は本当に素晴らしい。

第二の層はわれわれ人間が五感で捉える世界で、そこにもルールがある。私がこの本で理論としているのは、赤ん坊がお母さんのおっぱいを飲んでいるときにそれら五感がチューニングされるということです。体温や柔らかさ、リズム、匂いなどに関する感覚をお母さんを通してチューニングしていく。だから個人差も出てくる。

第三の層は大人になってからの社会のルール。例えば、古代エジプトでなぜピラミッドがつくられ、あの三角形がシンボライズされ美しいとされたのか。社会の構造がそうだったからです。いちばん上に神がいて、ファラオがいて、民がいる。プロセスとしてすべてがトップダウンだった。ギリシャ時代になると民主制が生まれてきて、柱が神殿を、つまり権力を支えるというかたちになります。これはボトムアップのプロセス。これは良い悪いの話ではなくて、社会の構造によって、何を美しいとするかが変わってくるということなのです。そこには経済の影響もあります。1929年の世界大恐慌を経てライフスタイルやデザインは大きく変わったし、第二次大戦後の復興期には楽観的なビジョンとともに、美の基準も変化していきました。

つまり、美は自然のユニバーサルな原理がありつつも、人間や社会のファクターが入ってくるからとても複雑になってくる。幾何学的な観点から誰が見ても美しいものがある半面、心理学的な観点からセンスに合わない、好きになれない、また社会的に認める、認められないという話になるのです。……つづく。

アウグスト・グリッロ/ヴィッラ・トスカ・デザインマネジメントセンター・グループ CEO。1954年イタリア・カラブリア州生まれ。パルマ大学卒業。名古屋大学での研究員として日本にも滞在。93年ヴィッラ・トスカ・デザインマネジメントセンター設立。欧州や米国、日本を主とするアジア諸国のクライアントに対してデザイン関連サービスを提供する。照明器具の製造販売会社であるルーメンセンター・イタリアや教育玩具の製造販売会社ルデアをグループ内企業としても経営。美学、デザイン、デザインマネジメントについての論文や著作多数。2004年〜14年までミラノ県サント・ステファノ・ティチーノ市長も務めた。多摩美術大学生産デザイン学科客員教授。
http://www.lumencenteritalia.com
http://www.dmcvillatosca.it/uk/home.html

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