商品化への道のり
「カドミ光学工業」【後編】

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光の効果を味方にした、観念のかたち

クラウドデザインの出した「祈りのための道具」というコンセプトに対してカドミ光学工業取締役の森脇大樹氏は「光が醸し出す、とらえようのない存在の“気配”を感じさせるもので、そこに魅力を感じました」と振り返る。「「東京ビジネスデザインアワード」」でのマッチングが決まり、事業化に向けて一歩を踏み出すにあたり、同社はデザインプロジェクト事業部を新たに立ち上げ、森脇氏はプロジェクトリーダーに。「当社にとって初めての一般消費財。これまではブランディングという部署もなかったわけです。クラウドデザインにはコンセプトをどのようにブランディングしていくかをお願いしています」という。

▲「FROM NOWHERE」祈具シリーズより、「形見箱 Memento Case]の試作品。直径60mm 高さ30mm。
遺灰や形見を納めるためのケース。蓋とケースからなり、側面は磨りガラス加工。蓋の裏面のプリズムガラスの効果によって、中のものが見えたり、見えなかったりする。

ブランディングにあたり、クラウドデザインでは「カドミ光学工業の技術は工芸品の域にあり、製品は手作業によってつくられるのでおのずと高価なものになる。伝え方を含め、一般的なプロダクトとは異なる方法でのブランディングが必要になるでしょう」としたうえで、「光学ガラスが放つ光の神秘。そうしたものをつくり出す人間の手技と精神性。こうしたことを体現していくことを目指しています」と説明する。「今回の “祈具”はあくまでスタートラインの形であり、コンセプトを表現するものです。今後は“もの”にはこだわらず、無形の存在をどのようにして伝えていくかが課題」と言う。“祈りのための道具”としつつも、宗教的な意味合いではなく、世界中の多くの人が光に対して抱く希望や敬虔な気持ちを毎日の暮らしの中で呼び覚ます、そのための“かたち”ということなのだろう。

▲「FROM NOWHERE」祈具シリーズより、「分光枠 Prism Frame」の試作品。150mm角、厚さ16mm。
想いを投影するための空のフレーム。三角柱の光学ガラスを組み合わせたフレーム。枠の内側は空洞。フレームに射光するとプリズム効果により光が分光し、七色の光を放つ。

ブランド名を「FROM NOWHERE」とし、秋には本プロジェクトの概要を初めて発表する展示会を代官山で開催する。そして2016年1月にパリで開催される見本市「メゾン・エ・オブジェ」への出展に向けての計画も進む。「光学部品と並ぶ主力事業になることに期待しているんです」という森脇氏。光を見て心躍らせる少年のような眼で語ってくれた。(取材・文/長谷川香苗)

▲左からクラウドデザイン 三浦秀彦氏、カドミ光学工業 取締役 デザインプロジェクトリーダー 森脇大樹氏、クラウドデザイン 久保井武志氏

新ブランド「FROM NOWHERE」発表展示会
2015年10月29日(木)~31日(土)
代官山ヒルサイドテラス C-GALLERY C棟ギャラリー
「FROM NOWHERE」ホームページ http://www.fromnowhere.jp/

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