商品化への道のり
「ラ・ルース その後」【前編】

東京ビジネスデザインアワードの優秀賞を2013年に受賞後、新事業として「ひきよせ」ブランドを立ち上げたラ・ルース。ブランドディレクターの山田佳一朗氏とともに、14年のインテリアライフスタイル展への出展を足掛かりに、着実にブランドの認知向上を図ってきた。その後の展開を取材した。

ラ・ルース(本社:渋谷区)の生産工場は森林資源の豊かな小田原にある。そこで大量に生まれるヒノキ間伐材の有効利用の道を探ってきたラ・ルースにとって、間伐材を挽いてつくるテーブルウェアブランド「ひきよせ」が認知されてきたのは喜ばしいこと。ラ・ルースの相田秀和 代表取締役社長も素直に認める。15年1月にはかねてより目指していたパリのデザイン見本市「メゾン・エ・オブジェ」にも出展。クリスチャン・ディオール、カルヴァン・クラインといったハイエンドブランドからホームファーニシングアイテム用に受注契約を取り付けることができた。

海外に関しては今後、定期的な受注につながる百貨店など小売店へ卸すことを目標に、継続して海外の見本市に出展するのかと思いきや、相田社長の口からは「16年の海外見本市への参加は見送りました」という言葉が出てきた。勢いがついたところで攻勢をかけたくなるものかと思うのだが、「引き合いが増えるのはうれしいことです。しかし、『ひきよせ』を挽くことができる職人が限られていて、工業製品のように大量発注に対応する体制がまだ整っていません。そうした状況を踏まえて、すでにいただいている引き合いに対してきめ細かな対応ができるように社内体制を整えることが先決。急いで新たな顧客開拓には走ることはないと考えます」と語る。

▲左から株式会社ラ・ルース 代表取締役 相田秀和氏とデザイナーの山田佳一朗氏

▲ヒノキの「ひきよせ」コレクションは松屋銀座のデザインコレクションや伊勢丹新宿店でも取り扱いが始まっている。小田原の森林資源を生かしたものづくりというストーリーは着実に伝わっている。

1月のパリの見本市で「ひきよせ」ブランドの発表以来、すでに海外での売上は日本円にして約400万円に達している。「新しいブランドとしては異例の海外売上高です」とブランドディレクターの山田佳一朗氏は言うが、ビジネスデザインアワードに応募した計画書どおりに進んでいるのだそうだ。この状況を受け、ラ・ルース社員の意識も変わってきている。

「ラ・ルースではほかにも数えきれないほどたくさんの商品をつくってきましたが、1994年の創立以来、デザイナーが関わってきたことはないんです。しかし、メディア露出や数字が語りだすと、社員も気分が上がります。一月に1回の『ひきよせ』の定例会議にも、山田さんに事前に書類を提出して臨むなど、意気込みが変わってきています」と相田社長は言う。

▲海外見本市への出展を見送ったからといって商品開発の手を止めるわけではない。「ひきよせ」ブランドに今年の夏、新たに加わったトレイのコレクション。小田原の森林資源、メイド・イン・小田原は共通だが、挽き物の器に対して、トレイはラ・ルースのもう1つの得意分野である、指物の技術が生かされている。トレイ同士の縁がぴったりと収まるのは指物技術の真骨頂。メープル、チェリー、ウォールナットの色の組み合わせがデザインになっている。

▲トレイと同じく今夏に登場した「ときよせ クロック」。メープル、チェリー、パープルハート、ウォールナットの挽き板を寄木にしたクロック。斜めのラインの先端は1〜12時を表す文字盤も兼ねている。

山田氏がラ・ルースのブランディングを手掛けるようになって約2年。今では2月に新作の発表が予定されているコーポレートブランドのブランディングも任されているという。東京ビジネスデザインアワードから始まったマッチングではあるが、アワードから離れて、企業とデザイナーのこうした関係が継続していったとき、新たなものづくりのあり方が見えてくる気がする。(取材・文/ 長谷川香苗、写真/ 西田香織)

後編につづく。

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