基本理念、「人間は自然に内包される」。これは越後妻有アートネックレス整備事のすべてのプログラムに貫かれています。人間と自然がどう関わっていくかという可能性を示すモデル地域になることを目指して、越後妻有の地域づくりは始まりました。1996年に新潟県がスタートさせた“ニューにいがた里創プラン”。県内の広域行政圏が独自の価値発信によって地域づくりに取り組むことを目指し、十日町広域行政圏は、“越後妻有アートネックレス整備事業”として指定第一号になりました。地域に内在するさまざまな価値を、アートを媒介として掘り起こし、その魅力を高め、世界に発信し、地域再生の道筋を築くことを目標に掲げたのです。
上記は、「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」のパンフレットに書かれている文章です。
2000年から始まり、今回で4回目を迎えるこの芸術祭。私の住む前橋から1時間半で行けるにもかかわらず、恥ずかしながら、今回初めて訪れました。不勉強を反省しつつ、私見を書きます。
越後妻有とは十日町市と津南町の2つの自治体からなり、東京都より広い760㎢、人口71,000人、65歳以上が3割を占める日本有数の豪雪地帯です。その広い敷地の200以上の拠点に、300点を超すアート作品が散らばっています。こんなところに作品はあります。
奥に写っているのが作品です。第一印象は、このイベントがなかったら絶対来ないなということ。作品のことではなくてすみません……。誤解のないように言っておきますが、悪い意味ではありません。スキーシーズンはよく行く地域です。いろんなところにアート作品が置いてあって、観光客が見に来て、食事して……と、イベント感覚で歩いていました。
ところがイベントとは何かが違うんです。駐車場の係りの人が若い。お茶をサービスしてくれます。田んぼのど真ん中でこれもすごいですが、どう見ても地元の方、普通に農作業してるおじいちゃんが、なんとなく手を振ってくれます。ボランティアと地元の人が、にこにこしながら迎えてくれます。「私なんか、もう10年もここでボランティアだよ!!」と笑い飛ばすおばちゃん。「もうね、毎日この作品見てるからさ、家族みたいなもんだよ」と話し始めるおばちゃん。話しかけてくるんです。
「へ? 毎日?」と思って見てみると、そりゃ、そうだ。撤去できない。イベントの期間外も毎日、アート作品と共存する生活。この地区はそれが当り前なのです。日常です。
実は、前橋市にアーツ前橋という芸術文化施設ができることになりました。これをどんな施設にしたいかという提言を市長に行うという運営委員会があり、その一員として数カ月お手伝いさせていただきました。すでに方向性が出て委員会は解散したのですが、そのメンバーが、今後も継続的に意見交換をしていこうという集まりの一環で、越後妻有へバスツアーで行ったのです。
夕方、事務局の方と総合ディレクターの北川フラム氏の話を聞くことができました。詳しく書くと、長くなるのでキーワードをいくつか。
・アート自体では何も変わらん。ただ、アートを使えばなにか変化するかもしれない。
・ボランティアはそんなに甘いもんじゃない。ここには中途半端なボランティアはいない。志を同じくしている人がいる。
・批判を一手に引き受けて、絶対やりきる強い気持ちが大事
まだまだ、たくさんあるのですが……。驚きました。完全に企業家です。北川氏は30分以上話し続けていました。内容も素晴らしいですが、それ以上に話し続けるその姿を見て思いました。彼は、越後妻有が好きなんです。そして、その魅力をたくさん知っているんです。魅力ある場所で、なんとかその魅力を知ってもらいたいと思っている。知ってもらって、その地域の人たちに、再度自分たちの魅力に気付いてほしいと願ったのではないかと。専門的な知識や手法はあると思います。ただ、根本は、べたな言い方ですが“強い気持ち”だったと思います。そして、その手段としてアートを使ったに過ぎない。魅力があるから、それをどう魅せるか、どうまとめるか、どう生かすか。当たり前ですがこれが原点でした。
私たちの会社も、地域も、国も同じです。もう1度、自分の魅力を見つめてみようと思いました。もう1度、自分たちの会社、地域、国の魅力に気付くと、次の一手が見えるかもしれません。原点を見失った私たちは、手法に頼りすぎているのかもしれません。
過疎地で農業をやってきたお年寄りと、都市で何をやっているのかわからない学生との出会いは、衝突、困惑から、理解、協働へと変化し、地域は若者によって開かれていきました。アーティストは、他者の土地にものをつくらなければならず、コミュニケーションをとらざるをえません。やがて、アーティストの学習と熱意は住民を動かし、住民たちは“観客”ではなく、“協働者”として作品に関わりだしました。
これもパンフレットに書かれている一文です。会社を、地域を、日本を“観客”として見るのではなく、会社を、地域を、日本を元気にする“協働者”へ。モノに対価を払うという経済活動が中心だった時代から、各地域のコミュニケーションという新しい経済活動が生まれてきていることを実感した2日間でした。
なんで、こんな山奥の過疎地に人が来るんだろう……。その土地とそこに住む人間が魅力的だからです。(文/中台澄之)
この連載は株式会社ナカダイ前橋支店支店長・中台澄之さんに産業廃棄物に関するさまざまな話題を提供していただきます。