ニュージーランドのビール会社、ベックスは、製品を醸造して販売するだけでなく、ファッション、音楽、デザインなどの分野のクリエイターたちの支援活動も行っている。
自らのプロモーションに関してもクリエイティブなアイデアに満ち、自社ブランドのミュージックレーベルも展開中であることから、先頃、広告代理店のシャインと、エンジニアリングチームのジャイロ・コンストラクティビスツの協力を得て、とてもユニークな音楽再生装置を完成させた。それが「エジソンボトル」である。
エジソンと言えば、白熱電球をはじめとするさまざまな発明品で知られるが、レコードの原型となった円筒形のロウ管を用いる録音・再生装置、シリンドリカル・フォノグラフを考案したことでも有名だ。ちょうど彼がそれを発明した頃、ベックスも最初の醸造を始めたという偶然もあり、ビールのボトルをロウ管代わりにして音楽を記録し、再生するというアイデアが生まれた。
しかし、せっかく現代の技術でつくるのであれば、かつてのスクラッチノイズだらけの音ではなく、音楽として鑑賞に耐えるだけの音質を確保したいという思いもあり、その開発は一筋縄ではいかなかったようだ。
当初は、平面の樹脂板(実は不要になったオーディオCD)を利用して実験的なカッティングを繰り返し、次に樹脂製のシリンダーを用いて録音に伴うさまざまな属性を調整。最終的にコンピュータ用のハードディスクのヘッドを動かすアーム部のメカニズムを使うことで必要なコントロールが可能となり、見かけからは想像できない高い音質で実際のボトル上に溝を刻み、再生することができるようになったという。
エジソンボトルは、ゴーストウェイブという地元バンドの新曲を収めて5月にオークランドでお披露目され、再生後に会場はスタンディングオベーションとなった。デジタル時代だからこそ、あえてアナログ技術を極めたデザインでプロモーションを行ったことで、ベックスのブランド価値は大いに上がったと言えるだろう。
大谷和利/テクノロジーライター、東京・原宿にあるセレクトショップ「AssistOn」のアドバイザーであり、自称路上写真家。デザイン、電子機器、自転車、写真に関する執筆のほか、商品企画のコンサルティングも行う。著書は『iPodをつくった男 スティーブ・ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』『43のキーワードで読み解く ジョブズ流仕事術:意外とマネできる!ビジネス極意』(以上、アスキー新書)、『Macintosh名機図鑑』『iPhoneカメラ200%活用術』(以上、エイ出版社)、『iPhoneカメラライフ』(BNN新社)、『iBooks Author 制作ハンドブック』(共著、インプレスジャパン)など。最新刊に『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか』(講談社)がある。