川村元気さんに聞く。
時代の空気を醸成する、 未来の人々の気持ちをいかに掴むか

各分野の、豊富な知見や知識がある人のもとを訪ね、多様な思考に触れつつ学びを得る「Perspectives」。4回目のゲストは、映画プロデューサーの川村元気さん。「告白」「モテキ」「君の名は。」など、次々にヒット映画を世に送り出してきた。12年には「世界から猫が消えたなら」で小説家デビュー。その後、絵本や広告といった領域に活躍の場を広げている。次代のインハウスデザイナーのあるべき姿のヒントを求めて、クリエイティブディレクターの細田育英さんが、時代をつくるヒットメーカーを訪ねた。

▲川村元気(かわむら・げんき)さん
映画プロデューサー、小説家。1979年生まれ。26歳で映画「電車男」を企画、プロデュース。その後も「告白」「モテキ」「君の名は。」などを企画。2012年に発表した初の小説「世界から猫が消えたなら」が140万部突破。2作目の「億男」が18年に映画化された。他著に「四月になれば彼女は」、対話集「仕事。」など。仕事の領域は、絵本や広告と多岐にわたる。

人々の気持ち、時代を捉えるために

「映画」に軸足を置きながら、アニメや小説、絵本や広告へと創作の舞台を移し続ける川村元気さん。「映画は企画から公開まで2年以上かかるため、マーケティングが通用しない世界。『2、3年後にこういう映画を観たいはず』という感覚が、世間とマッチしているかの勝負」だと語る。数々のヒット作は、時代の変化をいち早く感じ取り、人々の「観たい」に応え続けてきた成果だ。

成功への方法論のひとつが、10年前に成功した映画にヒントを見出すこと。娘を殺された中学教師が主人公の「告白」を企画した頃、コメディ映画が脚光を浴びていた。そこであえて、シリアスなR15+指定作品を世に出す。時代に迎合しないからこそ、「待ってました」という人々の気持ちを捉える。

「『10年前はここでも魚が獲れた』という話を聞いて、行動に移すイメージです。魚は回遊するもので、10年ぶりにその場所に行ったら大きな魚がいるかもしれない。そう考えて、手漕ぎボートで出かけて、釣り糸を垂らしてみるのが僕」と続ける。

川村さん曰く、2016年公開のアニメ作品「君の名は。」は、アニメの世界にアニメらしからぬ表現を持ち込むことで成功に導いた作品。ミュージックビデオやユーチューブ的な映像編集が随所にあり、映像を切り替えるテンポや物語の進行はスピーディー。音楽も、場面とともに目まぐるしく移り変わる。

数年後の人々は、何を欲しがるか。こうした人々の気持ちに興味を持つのは、細田育英さんも同様だ。細田さんはこれまで、ヘッドマウントディスプレイやAR、VRデバイスといった新規性のある製品の数々を手がけてきた。2年ほど前には、2026年を舞台にしたアニメ映画の作品内に登場するARデバイスをデザイン。細田さんは
常日頃から、街を行き交う人を眺め、人々の気持ちを捉えようとしている。そこに新たなテクノロジーを結びつけることで、未来の社会のリアルな姿を見出し、数年後の価値観を提案するのが彼の手法だという。

「会社の入館カードってあるじゃないですか。みんな、あれをゲートでピッってやると仕事のスイッチが入って、開発側のモードに切り替わり、消費者のことがわからなくなる。だから外に出て、自分の目で見て、人々の気持ちを想像するようにしています」と言う。

▲細田育英(ほそだ・やすひで)さん
ソニー株式会社クリエイティブセンターDBD室クリエイティブディレクター。トヨタ自動車でレクサスのデザインなどを手がけた後、2005年にソニー入社。主にAR、VRなどのウェアラブルデバイスや先行開発系、人工知能アプリ「ぺちゃ」の開発など新規案件を担当。現在は新規ビジネスの開発に勤しむ。

人に近づくことで、次なる興味が生まれる

川村さんの興味は今、「目に見えないけど、人々の気持ちのなかに確かに存在するもの」に向かっている。「初詣に行かないとやっぱり気持ち悪いとか、古いお守りでもゴミ箱に捨てられない感じ。そういった感覚をベースに物語をつくりたいですね」。

細田さんは、川村さんの対話集「仕事。」(文春文庫)を読んで、倉本 聰さんの『チック』という言葉が印象に残ったと言う。チックとは、「突発的に出てしまう人間のくせ、つまり人間のこだわりみたいなものですね」と語られている。そこに、細田さんが考えるUXデザインとの共通点がある。「例えば、いいことや嫌なことがあって、その気持ちを引きずったまま過ごすと、誰かに優しくするのか、八つ当たりをするのか、半日後まで影響してきます。UXは瞬間的なことではなく、その人の時間の連続性のなかにあります。緩やかにつながる時間のなかでUXを考えていきたい」と言う。そのために必要なのが、人に近づくことなのだ。

▲川村元気さんの対話集「仕事。」(文春文庫)

領域を変える、未知なる場所に行く

領域をクロスオーバーしながらの川村さんの活動は、映画にも有益な気づきをもたらす。小説を書いたことで、映画の武器は音楽と再認識。その業界にいては見えないことを、俯瞰することで見つけ出すことができる。もともとバックパッカーとして世界を周り、今でも年に1度は未知なる場所へと出かけるという。決まりごとを尋ねると、「知らない街に行くことだけ」。その理由は、「インドの知らない街に到着して、駅を降りたら野犬が100匹いるような状態。そこで頭をフル回転させてサバイブする。アドレナリンが出るのは、やっぱり未知の領域ですね。同じ場所にいると、仕上がりのパターンもわかってしまいます」と答える。

多様な領域に未知なる場所を求めるからこそ、川村さんは時代をつくり続けてきた。これからのインハウスデザイナーに求められるのも、常に環境や場所を変え、時代の空気を醸成する、未来の人々の気持ちを捉え続けようとする姿勢だ。(文/廣川淳哉)End

もうひとつの「Perspectives」ストーリーでは、川村さんのお話をきっかけに細田さんがどのようなデザインのあり方を考えたのか、その思いを語ります。Sony Design Websiteをご覧ください。

▲東宝スタジオの試写室にて対談