当たり前と思っていた日常を一変させてしまった新型コロナウイルスの感染。この世界的危機と言える状況下では、多くの情報が行き交い、あっという間に現在が過去になっていくような変化の激しい日々が続いています。
“過去を見つめることから未来をつくり出す”ことを実践してきたクリエイティブユニットSPREADは、コロナ禍において行動を起こしたクリエイティブな活動をリサーチし、未来を考えるヒントを探ります。本ウェブでは、SPREADが特に注目するものを毎日1本ずつ紹介していきます。
Voices of Lockdown from Sebastiano Facco vimeo 1 on Vimeo.
今日のトピック
イタリアの広告代理店「Arsenale 23」は、映画監督であるセバスティアーノ・ファッコ氏(Sebastiano Facco)とともにロックダウンの裏側で孤独と闘う人々の声を集めた短編映画「Voices of lockdown」を制作。撮影は夜間外出が許可された時間に行われました。
SPREADはこう見る
マンションの窓に点々と灯る明かり、カーテンの隙間から人のシルエットが見え隠れします。イタリアといえば、バルコニーで歌を歌ったり、隣人同士でお酒を乾杯するような明るいイメージが思い起こされますが、この映像は真逆の暗く沈んだトーンが全編を覆います。電話越しに録音された6人の市民の肉声は、ロックダウンにより起こった生活の変化や日常を語ります。その声はまるで私たちが直接彼らから友人や家族の近況を聞いているようです。
最初に紹介されるマルコさんは「6件のローンの支払いを済ませるために10日間必死に動いた。できることはすべてやったからそんなに心配しなくても大丈夫」と伝えます。
妊婦のマチルダさんは、健康維持のために運動が必要ですが、外に出て散歩することも難しい様子。「自宅で仕事はできるが自力での運動は難しく、お腹がどんどん大きくなり、さらに体調が悪くなってしまう」と、不安と焦りを打ち明けます。
オルネラさんは、ロックダウン中に母親が亡くなりました。自宅から出られない状態でしたが、無事葬式を執り行うことができたそうです。「悲しくてたまらないこともあったが、いまは葬式ができたことに満足している」と語ります。
背景に流れる管弦楽器の切ない旋律がロックダウン中の人々が抱えるリアルなストレスや孤独をさらに印象付けています。
映画は「3月から約2億7000万の人々がロックダウン下で過ごした。ロックダウンは失望のように感じてはいけない。」というメッセージの後、コロナウイルス検査が陰性だっと電話で報告をもらうファッコ監督自身の声で締めくくられます。それは不安が大きくなる状況での明るい兆しなのかもしれません。できれば定期的に続編をつくって公開してほしいと感じました。これを見てすぐに何かが解決したり新たなアクションが起こったりするものではないかもしれません。しかし、この記録は人の記憶に残り続け、時間はかかるかもしれませんが、いつかある時に何か大切なことに繋がるような気がするのです。
Arsenale 23
イタリアを拠点とする、主に映像広告を制作する広告代理店。2007年設立。コピーライター、アートディレクター、デザイナーから建築家、映像作家、ソーシャルメディア・ストラテジスト、聖職者など多様な職種の人々と協働する。