CITIZEN-CENTERED DESIGN

多様な人びとと、共に考え、共につくる社会

Message

編集長からのメッセージ

「CITIZEN-CENTERED DESIGN(シチズンセンタードデザイン)」というタイトルを冠した今号の特集は、多様な人びとと、共につくり、共に考えるデザインアプローチの可能性やその方法を探るというものです。

デザインの金言に、「ヒューマンセンタードデザイン(人間中心設計)」という言葉があります。製品開発の初期段階から利用者の使い勝手を考慮するプロセスを規定した概念ですが、同時に、人間観察を通して、問題点とその解決方法に気づかされることを示唆してもいます。

対して、「シチズンセンタードデザイン」は、シチズンという名のとおり、多様な市民が社会を構成する一員としての責任を意識し、創意や工夫に満ちた活動を行政や専門家などとともに行い、課題を解決する――そんな市民が主体的に関わるデザインプロセスと言ってもいいでしょう。

人びとが自らの将来と課題を見据え、ありたい姿を描き、具体的なプロジェクトを構想して実行し、変化をつくり出していく。取材で訪れた東北の3つの公共施設では、市民が行政や専門家と連携し、互いの立場や考え方に折り合いをつけながら、「同志」としてまちづくりを進め、結果として市民力が高まるという好循環を生み出している様を目の当たりにしました。モラルや権利、義務といったものを背負った多様な人びとが社会的な目的を実現するために共創し、つくりあげた空間に、あるべきパブリックスペースの姿を見たような気がします。市民という利用者の使い勝手を考慮するのではなく、市民という多様な人びとと、共につくり出すアプローチこそが、豊かな社会をデザインするカギになりそうだということを感じとっていただければ幸いです。

「AXIS」増刊号として、“時のデザイン”をテーマにした「CITIZEN」も絶賛発売中です。期せずしてタイトルが重なった弊社刊行の2冊のシチズンをよろしくお願いします。

上條昌宏 

018

ダン・ヒル インタビュー

真に「意味のある」デザインを生み出すプロセス

個ではなく、より多様な層――人びとと向き合い、デザインを本来のニーズに沿ったかたちに近づける。スウェーデン政府のイノベーション機関「ヴィノヴァ」の戦略的デザインディレクターなどを歴任したダン・ヒルは、各国の都市プロジェクトで利害が異なるさまざま要素を束ね、公共的で公益性の高いデザインアプローチを実現してきました。シチズン・センタードデザインがボトムアップでもたらす変化の様相について尋ねます。

036

シチズンセンタードが変える商品づくり。
「オール・ジェンダー」なファッションブランド

環境面だけでなく社会面でも、企業が責任感をもって商品づくりをしているかどうかが問われる現代。ニューヨーク、ロンドンでは消費者が、社会・環境両方に対する責任を負ったシチズンに変化していることから、新しいブランドが誕生からは、消費者が、社会・環境面に対する責任を負ったシチズンに変化していることがうかがえます。

041

アートコレクティブのアクティビズムが目指すのは、すべての人が平等な社会

社会には自らの声を発することさえできない人が存在します。そうした輪の中からこぼれ落ちてしまいそうな人びとと活動し、社会課題に立ち向かうことで近年注目を集めているのがアートコレクティブです。彼らはアートの力によって地域のコミュニティを形成し、各地で小さな理想郷をつくり上げています。その取り組みはシチズンセンタードデザインが目指す光景そのものといえます。

050

対談 平田晃久(建築家)×関 治之(起業家、シビックハッカー)

「人」ではなく、「人びと」のためのデザインをつくる

建築家として、時にはテクノロジーを駆使しながら、公共建築 を使い手と共につくることを試みる平田晃久。エンジニアから転身し、情報化戦略において地域課題の自律的な解決を サポートする関 治之。平田は建築、関はITとそれぞれの立場から、共創のあり方を模索します。多様な人びとを巻き込んだ共創はなぜ今デザインに必要なのでしょうか?社会にもたらす可能性とは?ここ10年の取り組みを振り返りながら、人びとと共につくることの意義や手法を語ってもらいました。

060

東北の公共建築と、復興で進化した市民共創プロセス

東北地方では震災復興を余儀なくされながら、ワークショップの実施やファシリテーションの工夫、官民の連携などさまざまな共創手法を模索し、市民の需要を踏まえた施設整備がなされています。宮城県の女川、気仙沼、福島県の須賀川という3つのエリアで展開された事例を通し、人びとのための魅力ある施設づくりの要点を、関係者の声とともに紹介します。

071

LEADERS

小池一子 クリエイティブディレクター

1960年代から現在まで、デザインとアートの最前線に立ち続けている小池一子さん。デザインの黎明期にはコピーライターとして活動し、その後はキュレーターとして数々の展覧会を企画。無印良品の生みの親のひとりでもあります。「現代美術」が日本でまだ認知されていなかった当時、作家と伴走する場として佐賀町エキジビット・スペースを創設し、数多くのアーティストを世に送り出してきました。その仕事は多彩で革新的ですが、一貫しているのは常に目の前の社会に向き合ってきたといいます。この数年、小池さんの活動を振り返る企画や出版が相次いでいます。揺れ動く現代だからこそ、皆、小池さんの話を聞きたいのです。

076

Sci Tech File

鳥は言葉を話し、 文法も単語も操れる

言葉をしゃべるのは人間だけでしょうか。イヌは怒ったり喜んだり食事をねだるときに違う調子で鳴き分けますが、「オマエが悪い」とか「お腹が空いた」といった文章は使いません。動物の鳴き声はもっぱら感情の表出と考えられてきました。しかし、鳥類の音声コミュニケーションを研究する、京都大学白眉センター特定助教の鈴木俊貴氏は、シジュウカラが単語や文法のある文章を使っていることを世界で初めて証明しました。はたして、それはどんな言葉なのか。鈴木氏がシジュウカラ観察を行っている軽井沢を訪ねました。

094

INSIGHT

資生堂×ソニー クリエイティブトップふたりが語る 時代を超えて本質を捉え続けるデザイン組織のつくり方

今、国内のインハウスデザイン部門が変わりつつあります。2022年1月に発足したばかりの資生堂クリエイティブの代表取締役社長に就任した山本尚美と、21年9月にソニーグループのクリエイティブセンター長に就任した石井大輔。ふたりはどのような役割を担い、課題を抱え、組織に変化をもたらそうとしているのでしょうか? 日本を代表するふたつのデザイン部門のトップに聞きました。

112

新連載 TAKT PROJECTの東北考

第1回 閉じると開く

人間を中心とした都市の発展の過程でこぼれ落ちた「何か」があるはずです。厳しい自然と「周縁」としての固有の文化を有する東北各地を訪れ、そのこぼれ落ちた何かから、今後のデザインの手がかりを探ります。

AXIS Vol.217

CITIZEN-CENTERED DESIGN

多様な人びとと、共に考え、共につくる社会

2022年4月30日 発売

1,800円(税込)

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