「KENCHIKU I ARCHITECTURE」vol.2ーーフランスからの提言
「FLOATING FIGURES/あわいをいく者たち」

現在パリで開催中の「KENCHIKU | ARCHITECTURE 2011」において、アソシエイト・キュレーターを務めた建築家のバンジャマン・オーブリーが、フランスの若手建築家の動向をレポートします。

▲Entre un et zéro, Cimetière de järva ©GRAU

ここ15年の日本建築の動きには目を見張るものがあります。芦原義信の著書『隠れた秩序ーー二十一世紀の都市に向かって』に始まり、アトリエ・ワンによる『メイド・イン・トーキョー』『ペット・アーキテクチャー』『ポスト・バブル・シティ』、そして『JA』等の建築誌を見るにつけ、都市・建築デザインに対する議論の高まりを強く感じます。

1990年代のバブル崩壊後、必然的に大型公共事業は減少し、都市・建築デザインのコンセプトにも転換期が訪れました。以降の建築家たちは発想の転換を余儀なくされ、結果的に小さな建築物のデザインへとエネルギーが注がれ、彼らの目新しい作品は専門誌で取り上げられるようになりました。

▲密集した家屋の立ち並ぶ東京の都市風景(写真/バンジャマン・オーブリー)

▲古くからのファサードが街を形成するパリの都市風景(写真/ブランディン・デュパ)

小さなスケールに対する繊細なアプローチ、既存の都市空間を考慮したデザイン、そして日本の都市特有のカオスをポジティブに受け入れるという姿勢により、日本における建築家という職業は、過去の遺産の上にありながら、同時に新たな側面を見せることとなったのです。

▲Hangar ostreicole + lieu de repos @Atelier RAUM

こうした日本の現状を前に、建築デザインが「芸術作品」として位置づけられるヨーロッパやフランスの状況に疑問を抱かざるを得ません。フランスでは、いまだ古典的な都市の慣習や規範が根強く残っており、建築プロジェクトにおいても分厚い法規の壁にぶつかることが多くあります。歴史的価値のある都市の中枢部に大きな関心が注がれる一方で、広がり続ける都市の郊外は手付かずにされているのが現状です。歴史的都市の周りに郊外地域が際限なく広がる状況は、無数の星が点在する広大な夜空にもなぞらえられるほどです。

▲group form ©La Ville Rayée

今後、郊外化した大都市の現状、そして新たな建築のあり方を考えるにあたり、日本から学ぶことは多くあるのではないでしょうか。

次第にこのような現状に目を向ける建築家がヨーロッパ中で見られるようになり、そしてフランスでは建築家の役割を再定義する必要が増してきました。不況を機に、日本が成し遂げたことに目を向けることで、フランスにおける都市・建築デザインの新たな方向性が見えてくるはずです。

▲Mroom ©Building Building, Thomas Raynaud

フランスの新世代建築家は、新たな建築のあり方を模索しはじめています。二元論的な都市の見方(高速道路は悪、緑地は善など)が見直され、既存の価値観に疑問が投げかけられるようになりました。新世代建築家たちは使い古された理論に依存することなく、自身を取り巻く現実に向き合いながら行動することを重んじています。寄るべきものがないがゆえに時には大いに迷います。ただ明らかなことは、奇跡的な革新的解決策はもはや存在しないということ、そして、よりプラグマティックな視点で多くの選択肢のなかから模索することが現代における必然であるということです。

▲Silly project ©Est-ce ainsi, Xavier Wrona

「KENCHIKU | ARCHITECTURE 2011」に出展するフランス側の建築家、例えば、アトリエ・ラウムは実験的なリサイクルプロジェクトに通じ、ラ・ヴィル・レイエは建築とは日常にあふれる多くのものの1つでしかないと語り、トマ・レイノーは既存建築のリノベーションに価値を見出し、グザビエ・ロナは建築家の社会的役割に大きな関心を抱いています。このように、フランスの新世代建築家たちは、日本同様、新たな建築文化のアウトラインを描こうとしています。その意味では、両国の建築家たちは同じ状況下にあるといえると同時に、ヨーロッパの状況は次第に日本に近づいていくのではないでしょうか。

▲CNAC project ©NP2F

もはや巨大建築プロジェクトを続けられないのは明らかです。現代のフランスにおける状況はかつての日本と重なります。逆境により開拓されたアプローチは幅広く、それはコンパクトシティや既存都市空間への介入から、実験的な小建築のデザインにまでわたります。日本の教訓とは、建築デザインであり、都市のコンセプトであり、さらには建築家たちの思想でもあると言えるでしょう。(文/バンジャマン・オーブリ、和訳/ロジャー・テイラー)



バンジャマン・オーブリ(Benjamin Aubry)/建築家。ヴェルサイユ建築大学卒業、京都工芸繊維大学で学ぶ。在日中、SANNA、中山英之設計事務所、アトリエ・ワンに勤務、日本の都市風景とフランスの周縁都市状況との類比について論文を執筆する。現在、パリの設計事務所l’AUCに席を置く。