Photo by Kazufumi Nakamura
世界でなんと10億枚以上の販売実績を持つ、ディズニーのキャラクターをモティーフとしたカードゲーム「ディズニー・ロルカナ・トレーディングカードゲーム」。その日本語版を展開しているのは、日本の老舗玩具メーカーであるタカラトミーです。描かれているキャラクターや書かれている情報が、カード自体のパワーを表し、それを選んで相手と対戦するカードゲームにおいて、使用するフォントには、読みやすさ、ゲームの世界観に適合するデザイン性が求められます。
この大ヒットトレーディングカードゲーム(以下TCG)の日本語版にAXISフォントを選んだ理由を、TCGのエキスパートであり、日本語へのローカライズを担当した、株式会社タカラトミー キャラクタービジネス本部の和田寛也さんに伺いました。
トレーディングカードゲーム、そして「ディズニーロルカナ」とは?
2025年1月から日本で販売が始まった「ディズニー・ロルカナ・TCG」は、こんなカード。
——まず初歩的なことになりますが、トレーディングカードゲームについて、その発祥や楽しみ方など、基本的なことを教えていただけますか。
トレーディングカードゲームは、19世紀後半のアメリカで発祥したといわれており、当初はスポーツ選手の写真やイラストがモティーフで、コレクションして楽しむものとして親しまれてきました。
日本では、プロ野球選手やキャラクターのカードが、お菓子のおまけとして人気があったことを知る方も多いでしょうし、古くは“めんこ”がそれに近いものだったと言えるでしょう。
日本語版開発業務のディレクションを担当した和田寛也さん。インタビューはタカラトミー本社の一室で行われた。Photo by Kazufumi Nakamura
その後やはりアメリカで、チェスや将棋のように対戦するゲームが登場します。これは、⾃分が所有するカードからゲームに使⽤する“駒”となるものを選んで、⾃分だけのカードの束=“デッキ”をつくって、相⼿と⼆⼈で対戦をするというものです。
その文化は日本でも広がり色々なキャラクターのカードゲームとなって、新たな遊びのカテゴリーとして発展してきました。タカラトミーでは2000年代にTCGを展開しそれ以来、長く続けてきた商品のカテゴリーということになります。
——そして、今年1月、タカラトミーでは、ディズニーのTCGの展開を開始されたのですね。
「ディズニーロルカナ」は、2023年にドイツのラベンスバーガー社が企画して発売したディズニーのキャラクターなどをモティーフとしたカードゲームで、2024年夏の段階で、世界で10億枚を販売した実績のある大ヒット作です。タカラトミーではその日本語版を販売することになり、日本語版へのローカライズも担当することになったのです。
Photo by Kazufumi Nakamura
2023年に100周年を迎えたディズニーは、その長い歴史とともに、物語、キャラクターなど、膨大なコンテンツを有しています。それらが一枚一枚のカードとなっているので、ディズニーファンの方々には、非常に魅力的なものであるはずで、ミッキーマウスなどのキャラクターのほか、「アナと雪の女王」に登場する「レット・イット・ゴー」など、作品に登場する楽曲もカードになっています。ディズニーの作品の持つ世界観までをもコレクションとすることができるのです。
——「ロルカナ」というゲームの名前にはどのような意味があるのですか?
「ロルカナ」は、伝承、伝説を意味する“ロア”と、不思議、魔法、神秘を意味する“アルカナ”、二つを組み合わせた造語です。
Photo by Kazufumi Nakamura
ゲームのプレーヤーとなる我々は、インクを操る魔法使い“イルミニア”となって、ディズニーのキャラクターを描き出す、という設定になっています。そのキャラクターたちと協力して、世界の秘密である“ロア”(勝利点)を集める冒険に出かけるというのが、このゲームの基本的な設定で、相手より先に20以上の“ロア”を獲得した方が勝ちになります。
TCGにおけるフォント
——説明書とカードの本文には、AXISフォントの和文コンデンスが採用されています。このフォントを選ばれた理由は?
TCGにおいて、フォントは非常に重要な要素です。すべてのカード、プロダクトに共通して使用することになるので、全体の印象にも大きく影響しますし、ゲームをする上で、読みやすさは大切です。
カードは、横幅と縦幅が決まっているのでテキストを置くことができるスペースが限られ、級数(文字の大きさ)を下げることなく、より多くの情報を収められる機能性も重要です。先行してリリースされた英語版が大変な支持を得ていたこともあり、まずは、日本語版でいかにそのイメージを損ねずにローカライズを行うかという課題がありました。
当初はディズニーの映画字幕に使われているフォントを調べたりもしたのですが、グローバルな統一規格に合うフォントを選ぶ必要があり、かつ、英文表記の持つ雰囲気にできる限り近いものを探していました。
そしてあるとき、社内のグラフィックの専門家でフォントにも詳しい者に相談したところ、「このゲームに用いるべきなのは、ずばり、AXISフォントだよ」との回答を得たのです。「AXISフォントは、ある種のあこがれのフォントだ」と言うまでの惚れ込みようで、その際にこのフォントの成り立ちや、さまざまな実績例についても教えてもらいました。
パッケージや説明書にも使われているAXISフォント和文コンデンス。Photos by Kazufumi Nakamura
——そのAXISフォントで、この「ディズニーロルカナ」に適していると選んだのが和文コンデンスだったのですね。
アルファベットと、日本語のひらがなやカタカナでは縦横比が異なり、レイアウトしたときに印象が違うものになってしまいます。
AXISフォントは、デフォルトで長体になっています。長体スタイルのフォントとしてデザインされているため、アルファベットに近い縦横比で、英語版のスタイルを崩すことなく日本語版をつくることができたのです。これは、このカードゲームの求める機能的要件を完全に満たしているなと思いまして、ラベンスバーガー社にもこのフォントが最適だと説明し、承認をもらいました。
文字の大きさ、太さ、雰囲気など英語版とイメージの変わらない日本語版が誕生した。Photos by Kazufumi Nakamura
——確かに、一枚一枚のカードを見ると、ディズニーの世界観が尊重されていることが感じられます。
カードの絵は、すべてこのゲームのために描き下ろされ、膨大な人手と時間をかけて製作されたものです。また、日本語への翻訳は、ゲーム中にカードがどんな役割を持つかというゲーム・テキストと、キャラクターの名前、セリフなどディズニー的世界観を説明するナラティブ・テキスト、それぞれを分けるかたちで、日本語へのローカライズを行いました。
ゲーム・テキストに関しては、弊社が以前からパートナーとしてきた制作スタジオに依頼。ナラティブ・テキストに関しては、ディズニーの仕事も担当したことのあるベテランの翻訳家の方に依頼して、その方と私の二人三脚で作業を進めました。
——そうしたさまざまな課題を乗り越えた上で、今年、2025年1月からの商品展開が始まったのですね。
1月のリリースから始まって、およそ2カ月おきに新たなシリーズを展開しています。その度に200枚以上のカードをリリースすることになりますので、年間1,000枚以上のカードが誕生するということになります。
カードゲームはプレイするだけでなく、所有するという楽しみもある。コレクションを収めるフォルダー。Photo by Kazufumi Nakamura
商品としては、買ってすぐにゲームを楽しむことができる”構築済みデッキ”。6枚のカードがランダムに封入されている”ブースター・パック”。そして、”ブースター・パック”が16パックまとめられている”ボックス”などがあります。購入していただいたカードから、テーマに沿ったものを選んでいただいて、例えば、「アナと雪の女王」のプリンセスデッキ、「101匹わんちゃん」デッキ、などという、キャラクターやストーリーに沿ったゲームの楽しみ方もできるわけです。
構築済みデッキ「インクランド探訪 アンバー・エメラルド」。
遊びには世界をなめらかにする力がある
——対戦するだけではなく、集めるだけでも楽しめる、「ディズニーロルカナ」への反響、手応えをどのように感じていらっしゃいますか?
例えば、カードに描かれていたこのキャラクターが気になったから、映画を見てみようということもあるでしょうし、SNSにおいても“#ロルカナ”でさまざまな楽しみ方を発信されている方がいらっしゃいます。このゲームを契機としてディズニーの魅力に触れていただいている例に多く接して、とてもうれしく思っております。
実は、私は20代の頃、カードゲームのプレーヤーとして、年に5、6回海外のトーナメントに参加して、さまざまな国のプレーヤーと試合をしてきた経験があり、それがきっかけとなってこのカードゲームの仕事に就きました。
和田寛也(わだ・ひろや)/1985年神奈川生まれ。2007年に青山学院大学国際政治経済学部を卒業後、カードゲームの世界にふれ20代のほぼ全てをカードゲームと共に過ごす。株式会社ホビージャパンを経て2016年に株式会社タカラトミーに入社。自身のユーザー経験を活かしながらTCG全般の企画・開発業務に携わる。ディズニー・ロルカナ・トレーディングカードゲームではローカライズおよび日本語版開発業務のディレクションを担当。Photo by Kazufumi Nakamura
当時、対戦していたのは、中国、南米、ドイツなど、ほとんどが言葉が通じない国の人々でしたが、カードに書かれている文字は違っても、将棋やチェス、ブリッジのように、ゲームのルールは同じです。カードゲームは、言語、人種を超えてコミュニケーションが取れるツールなんですね。
遊びには、世界をなめらかにする力があります。カードゲームという遊びには、コミュニケーションツールとしての側面があり、それがようやくここ数年世界に波及してきました。今後、より多くの人々や世代に親しまれるようになっていくと思います。