詩的工学演習|
#04 意味は後から浸み込んでいく

エンジニア集団nomenaを率いる武井祥平が、日々の気づきを通じて、工学的発想やデザインとの関係を綴る。

nomenaの仕事のひとつに「おいしいかたち」という作品がある。これは竹尾が主催するTAKEO PAPER SHOW 2023「PACKAGING—機能と笑い」に際して、紙を使用した新しいパッケージの提案として制作された。発表時、私たちは以下のようなコンセプト文を添えた。

煎餅を食べるとき、食べやすいようあらかじめ割って小さくするのだが、そのときに現れる不揃いな欠片のかたちが案外、煎餅の食体験にとって重要な要素になっているように感じる。形状の多様さが、飽きのこない食感を期待させるからだろうか。(中略)
私たちは今回、三次元ボロノイという数理的手法を使って、煎餅を割るように、直方体の箱をさらに不揃いな小片の箱に分割する箱の設計システムを開発した。流通性は担保しながらも、多様なかたちのパッケージよって、食品から更なる美味しさを引き出そうとする試みである。

この作品が具現化される過程には、実はちょっとした裏話がある。作品の構想段階、私たちはアイデア出しに苦戦していた。やっとの思いで3つのプランをこしらえて、展覧会ディレクターの原 研哉さんに提案したのだが、どのプランも評価はいまいち。苦し紛れに構想段階に試作したボツネタを紹介したところ、原さんがそのなかのひとつを手に取りこうおっしゃった。「これはいいですね。これでいきませんか?」。