ピーター・サヴィルと「田舎のグラフィティ」
色彩は記憶の織り目になる

デンマークのテキスタイルメーカー Kvadrat(クヴァドラ)は、グラフィックデザイナーのピーター・サヴィルとの第2弾コラボレーションとして、新作ウールテキスタイル《Technicolour(テクニカラー)》を発表した。本作は、英国産ウールと伝統的な製織技術、さらに現代的な色彩理論を融合させた、コンセプチュアルかつサステナブルなテキスタイルコレクションである。

ピーター・サヴィル/グラフィックデザインの歴史に大きな影響を与えたデザイナー。マンチェスター・ポリテクニックで学び、1978年にファクトリーレコーズのアートディレクターに就任。数々のレコードジャケットで革新的なミニマルデザインやタイポグラフィを示し、音楽とデザインの新たな関係を築いた。後年は都市やブランドのビジュアル戦略にも携わっている。Photo by Nick Knight

レコードジャケットの思考法を布の上で試みる

ピーター・サヴィルは、ジョイ・ディヴィジョン や ニュー・オーダー などのジャケットデザインで名を馳せ、ヨウジヤマモト、ディオール、カルバンクライン をはじめとするファッションブランドのアートディレクション、さらにはマンチェスターの都市再生プロジェクトまでを手がけてきた、グラフィック界の巨匠である。

「レコードジャケットは、僕にとっても、当時の若者にとっても“アート”だった。“Technicolour”は、まさにそんなレコードジャケットのようなテキスタイルなんだ」。

そう語るサヴィルにとって今回のプロジェクトは、グラフィックにおける長年の哲学を、ウールという素材と産業プロセスに重ね合わせる新たな試みとなった。

今回の新作では、北ウェールズの牧草地で見た羊たちの鮮やかなスプレーマークの記憶を「Rural Graffiti(田舎のグラフィティ)」と名付け、テキスタイルへと昇華。見過ごされがちな自然のなかの視覚表現を、色と織りで可視化する試みだ。それは、グラフィックデザインが持つ「意味を編む力」を、布という物質に託したチャレンジなのかもしれない。

自然と産業、記憶と技術、そしてアートとデザインの間に立つサヴィルに、《Technicolour》に込めた「視覚で語る表現」について聞いた。