INTERVIEW | カルチャー / プロダクト
3時間前
建築家、デザイナーとして活動しながら、ヨーロッパ製家具を扱う輸入商社の社長も務めた寺田尚樹氏。そのキャリアを通して培われた視点から、モダンファニチャーの歴史をひもといた書籍『モダンファニチャーヒストリー 今さら聞けない!歴史から読み解く家具デザイン』(青幻舎)を刊行した。産業革命以降の系譜を、点ではなく線で読み解く――。豊富な知識と実体験をもとに語る、その思考の背景に迫る。

――2018年から2024年まで「インターオフィス」で社長を務められたと伺いました。本書のベースは、当時の社員向けレクチャー資料だそうですね。
はい。もともと僕は建築家ですが、創業者の原田孝行氏から社長就任を打診されました。原田氏に理由を聞くと、「いわゆる経営の専門家でなく、“デザイナー”が社長になることが面白い」。だから、ぜひやってほしいと説得されました。
社長をやるにあたって、自分に何ができるだろうかと考えたときに、デザインのバックグラウンドや知識を生かして、それを社員に伝える、それは僕しかできないことだと思いました。「社員向けの勉強会」の資料として、イラストや年表みたいなものを書いたりしていたものが、本書のベースとなりました。
――社員向けのレクチャーで、伝えたかったことは何ですか。
営業担当はどうしても売りやすい家具を売ってしまいがちですが、必ずしもそれが良質の家具とは限りません。オリジナルをアレンジした商品が流通していることもあります。僕はデザイナーなので、オリジナルであること、またプロダクトに込められたブランドやデザイナーの想いを尊重したいと思っています。だから、社員にもそれを感じてもらったうえで営業してほしいと思いました。
――本書には手書きの資料も掲載されていますね。
そうですね。家具の形をなぞって描くことで、自分の頭の中の整理にもなります。日頃ぼんやり考えていることを視覚化、言語化することは、社員に伝える準備にもなりますし、自分の備忘録としても役立ちました。

本書は、ドイツ、アメリカ、イタリア、スカンジナビア、日本の5章に分かれている。各章の裏が折り込みになっており、手書きの年表やイラストでびっしりと埋め尽くされている。
――執筆の過程でいちばん大変だったことはなんでしょうか。
歴史を客観的に書こうとすると、教科書のように硬くなってしまって、退屈してしまいます。本書では、「いや、本当はこうだったんじゃないか」といったようなことをたまに挟むことで、かなり読みやすくなったと思います。ただ、歴史的事実と僕の妄想を読者がミックスしないように、そこは気をつけました(笑)。
やっぱりデザインを客観視できないというか、どうしても自分ごとと考えてしまう。客観視して書ける部分と、自分の感情が入ってしまう部分があって、その割合をどうするか、そこは書きながらとても悩んだ部分でもあります。
――本書は、家具の歴史を体系的に学べる点が特徴的です。
家具の解説書は多く出ていますが、多くはカタログ的にページごとに紹介されている。ただそれぞれの家具が素晴らしいという内容だと、横につながらないんです。なので、違う視点もあったらという思いがありました。
ひとつの椅子は点であっても、それは他のデザイナーの椅子であったり、メーカーとのつながりなどの中に存在している点であって、点だけ紹介してもつながりが見えてこない。例えば、この椅子のデザインはこういう時代の流れの中で生まれたとか、この椅子ができるまでに誰と誰が交流があったとか。つながりが無限にある。

チャールズ&レイ・イームズの「ラ シェーズ」の名は、ガストン・ラシェーズの彫刻作品《フローティングフィギュア》に由来する。彫刻が椅子にぴったりと収まりそうだ。
――例えば、西洋絵画を見るときに、キリスト教の歴史がわかるともっと面白くなることがありますが、寺田さんの本にも共通する面白さがあると思います。
まさにそうだと思います。例えば西洋絵画でいうと、あの天使ガブリエルが持っている百合が何を意味しているのかとか、そういう背景を知ると絵を見るのもだんだん楽しくなってくる。そういうふうに家具を楽しんでもらいたいという思いがあります。実は本をつくる過程でいろいろと調べていくうちに、横道に外れてしまうことも多々ありました。それもまた楽しくて、それが本書のはみ出しコラムになっていたりします(笑)。

アルネ・ヤコブセンがデザインしたセブンチェアを一躍有名にしたのはある一枚の写真だった……など「はみだしmemo」にはエピソードが満載。
――名作家具を残すデザイナーにはどういった特徴があるとお考えですか。
例えばチャールズ・イームズですね。イームズはたぶんすごい人たらしです。すごく魅力的で、いろんな人を巻き込む能力があって、秀吉っぽかったのかも。
60年代以前の家具は、建築家が自分のプロジェクトのためにデザインしたものが多かった。例えばミース・ファン・デル・ローエのバルセロナチェアは、バルセロナ万博(1929)のパビリオンのためにデザインしたものです。そもそも商品化して、販売目的でつくられた椅子ではなかった。でも、戦後になると、ハーマンミラーとかノルとか、デザイナーがメーカーからの発注でデザインすることが増えていきました。
そうなると、やっぱりデザイナーにコミュニケーション能力がないとダメで、まずメーカーに声をかけてもらえる、良い人じゃないといけない。面倒くさい人とか、嫌な人って声がかからないんです(笑)。だから、あの人にやってもらいたいって思われる人に声が掛かります。今もプロダクトデザイナーで声がかかる人は、実力もあってさらに人たらし的な魅力がある人なんじゃないでしょうか。
そういった意味ではイームズは人を惹きつける魅力があった。そういう人が名を残すというか、モノを残していると思います。

「イームズは秀吉っぽい」と寺田氏。ちょっとしたエピソードが想像を膨らませていく。
――本書で紹介したデザイナーについて、寺田さんならではの特別なセレクトはありますか?
岡本太郎でしょうか。家具の本で岡本太郎を書いた人はあまりいないんじゃないかな。この《座ることを拒否する椅子》は、コンセプトがすごく面白い。いわゆるモダンファニチャーの括りでの「良い家具」とは違う良さがあって。
この椅子は、実は丹下健三がデザインした香川県庁舎の椅子のパロディだと思っています。丹下の椅子は信楽焼なんですけれども、あえて同じ素材でつくった。丹下への当てつけっぽいところがあるんです。大阪万博のお祭り広場にしてもそうですが、太陽の塔があの広場の天井を突き破って出るということが、丹下に対するちょっとした抵抗だと思うし、そういうふうに見ていくとこの奇妙な椅子も面白くなってくる。
“爆発おじさん”みたいな奇人のイメージで見られがちですが、岡本太郎も調べれば調べるほど、すごく魅力的な人です。筋も通ってるし。岡本太郎の書いた文章とか読むと頭がいいなと思う。若いときにフランス留学して、当時のパリの芸術家たちと交流があったりして。

寺田氏の著書においては《座ることを拒否する椅子》もモダンファニチャーに分類される。
ほかには、ブルーノ・ムナーリの「Zizì(ジジ)」ですかね。ピレリ社というイタリアのタイヤメーカーからの依頼を受け、家具のクッションぐらいにしか使われなかった発泡ポリウレタンの可能性を探る中で生まれました。発泡材に針金を入れただけのシンプルな構造ですが、素材に対する発想の転換を示す作品だと思っています。そしてそれが1954年の第1回コンパッソ・ドーロ賞を受賞したのは、イタリア人の懐の深さだなと思います。
ジジはどこかのデザインショップで見かけたことがある、という印象で終わってしまいがちです。ただ、コンパッソ・ドーロ賞の選考にかかわったジオ・ポンティの存在を知ると、また見え方が変わってきます。ムナーリがピレリ社と協働し、ポンティもまたピレリ社から依頼を受けてミラノ初の超高層ビル、ピレリタワーを設計している。そこには人と人との関係があり、点ではなく線としてつながっている。きっと一緒に食事をするような関係もあったのではないか、そんな想像をしながら読んでもらえたら嬉しいですね。
――寺田さんの考える「家具と暮らすことで生まれる豊かさ」について教えてください。
経済的な豊かさではなく、精神的な豊かさを大事にしたいですね。その家具がすごい高価な銘木でつくられたかということよりも、それを使うことによって、その人の気持ちが豊かになるかが重要だと思っています。そして、精神的な豊かに到達するためには、ひとつの家具に対して、もっと愛着をもつべきだと思います。
家具がつくられた背景や経緯、デザイナーやメーカー、時代背景なども含めて、その家具への理解が深まると、より愛着も湧きます。そうすると、メンテナンスをしたり、まめに掃除をしたりして、長持ちさせることができるようになります。
この本を読んでもらって、自分が今持っている椅子のことをもっと好きになるきっかけになってくれればいいし、あるいは新しく椅子を買うときに、こっちのほうが安いからという理由ではなくて、少し奮発してでもこの椅子を買おうとか、自分の家族に引き継いでいきたいとか、そういう気持ちになってもらえたら嬉しいです。
そして、ひとつ椅子を買うと、その椅子を置く場所には照明器具があったり、テーブルがあったり、ほかのインテリアプロダクトが必要になってくる。単純にこの照明がかっこいい、かわいいじゃなくて、この照明はいつできたのか、どういう意図なのか。そういうところを探っていくと、自分はその時代の雰囲気が好きだとか、この世界観が好きだとか、おのずとインテリアにまとまりが出てくると思います。あるいはあえて全然違うのを入れてちょっと外してみるみたいな楽しみ方もできるようになる。
――執筆当初は、モダンファニチャーにおけるモダンデザインの合理性を理論的に評価しようと考えていたそうですね。
当初は、単に「すごい」と称賛するのではなく、どのような時代背景があり、どのような制約のなかでその形が生まれたのかを客観的に説明したいと考えていました。例えば、使用できる素材が限られていたために三本脚になった、といった背景まで含めて理路整然と解説しようとしていたのです。
しかし、書き進めるうちに、それだけでは充分ではないと感じるようになりました。ひとつの家具を切り取って単純に良し悪しを論じることはできません。歴史や社会状況、人間関係といった文脈の中で理解すると楽しみが増えます。そのため、「モダン」という言葉だけでは到底言い表せないと思うようになりました。
もし数学の公式のように、誰が解いても、誰がデザインしても同じ答えに行き着くのだとしたら、それはどこか味気ない。家具には、そうした単純な合理性だけでは語れない魅力があると感じています。
ファッションのように、今年のモードとか、そういう目で家具を見てしまうとちょっと寂しいなと思うんです。家具は自分の生活そのものですから。だから自分のライフスタイルがあって、自分の価値観で選ぶのがいいと思います。自分の“ものさし”を持ったほうがいい、本書がその“ものさし”のきっかけになればいいと思っています。(文・写真/AXIS 大嶋里奈)![]()

寺田氏の著書『モダンファニチャーヒストリー 今さら聞けない! 歴史から読み解く家具デザイン』(青幻舎)。
寺田尚樹/建築家、デザイナー。1989年明治大学工学部建築学科卒業。2003年にテラダデザイン一級建築士事務所(現・寺田平手設計)を設立し、建築や家具、プロダクトなど幅広い分野で活躍。テラダモケイ主幹としても知られ、2018〜2024年にはインターオフィス代表取締役社長を務めた。2026年度より武蔵野美術大学教授。












