変わりゆく光の形、変わらないロマン。
長年照明の世界と向き合ってきた眼差しが捉えるもの

さまざまなデザインイベントが街を彩った昨秋の東京。そのなかでも一際印象に残ったのが東京・西麻布のカリモクリサーチセンターで行われた「アントニ・アローラ 光との対話」だった。「光」という捉えどころのない存在の果てしない可能性を示したこの展示は、照明という世界の面白さを強く再認識する機会をもたらしてくれた。

この展示の開催と運営に関わったのは海外照明を取り扱う商社「リンインクープ」。同社はこの展示を主催したスペインの照明ブランド「サンタ&コール」をはじめとした5社の日本総代理である。2004年の創業以来、意匠照明と向き合ってきた同社代表取締役の藤井野春に、会社のあゆみ、そしてその歴史のなかで感じてきた照明の世界への気づきや魅力について話を聞いてみた。

陰翳礼讃の世界

インテリアというカテゴリーにおいて、照明はひときわ異質な存在と言える。天井から吊るされるもの、壁に掛けられるもの、床に置かれるもの。その居場所は自由であり、プロダクトとしての形状や意匠も極めて多様である。それは、捉えどころのない「光」という存在をどう掴み、どう形にするかという、デザイナーの創意が最も純粋に投影される領域だからだろう。

昨秋開催された、サンタ&コール主催の「アントニ・アローラ 光との対話」は、光という存在の魅力を強烈に印象づけた展示だった。
スペインを代表する照明デザイナーであり、サンタ&コールと数多くのコラボレーションを行ってきたアントニ・アローラの創作に焦点を当てたこの展示は、単に新商品を並べるのではなく、アントニとブランドの持つ哲学を伝えることに主眼を置いたものだった。

1階では、サンタ&コールから厳選されたアントニの照明コレクションが並んだ

2Fではスケッチやプロトタイプ、彼が関わる建築プロジェクトの模型などが展示され、アントニの思考の断片に触れることができる構成に。

「カリモクリサーチセンターでの展示は、サンタ&コールとアントニの世界観を示すという意味でとても良いものになったと思います。サンタ&コールはアントニ以外にもさまざまなデザイナーとコラボレーションしているのですが、ブランドに通底する考え方として、“光に伴う空間”という視点をとても大切にしています。光や器具のデザインも重要であるが、どのような光の空間をつくっていくのか。それは日本の伝統的な空間構成にも通ずるものだと思います。だから決して華美な照明ではないけど、選ばれる素材のバランスや光と影の対比が、日本の空間にも不思議と馴染むものが多いんです」

地下1階では、光のインスタレーション作品「The Metaphor」が待ち構えていた。

薄いパンフレットの中から見出した「カラヴァッジオ」

そう語るのは「サンタ&コール」の輸入販売代理店「リンインクープ」の藤井野春。同社はほかにも、アングルポイズヌーラリーファILKW.といった海外ブランドを取り扱っている。どれもデザイナーの美意識が反映されたデザインが特徴的なブランドばかりだが、藤井のキャリアのスタートは、こうした情緒的な照明の世界ではなかった。

20代半ばに飛び込んだ海外照明輸入商社の後に転職し、スポットライトやダウンライトなどのいわゆるプロユーザー向けの設備照明が主体の総合メーカーで、10年以上法人向けの営業に従事していたという。しかし、機能性や効率が重視される建築照明の世界に身を置く中で、次第に照明器具そのものが持つプロダクトとしての魅力に惹かれるようになっていった。

「テクニカルな照明環境を扱う仕事も勉強になりましたが、自分はプロダクトデザインのような世界が好きだったんです。一人で始めるなら、家の照明を探しに来る個人のために、デザインの力で空間を変える提案をしたいと考えるようになりました」

サンタ&コールのTekio。シェードは日本の和紙工房の手によるもの。

そして2004年に地元の福岡で立ち上げたのがリンインクープだった。当初は日本に拠点を構えるさまざまな海外照明ブランドの福岡地区のディーラー業務を担うことから事業をスタートさせたが、転機は2006年に訪れた。デンマークの新進の照明ブランド「ライトイヤーズ(LIGHTYEARS)」の国内展開に携わることになったのである。

「あまり深く考えてはいなくて、カタログが薄かったのでこれくらいなら自分でも大丈夫かなと思った」と、そう笑って当時のことを振り返る藤井だが、その限られたラインナップのなかに一際目を引くものがあったという。

「当時まだほぼ無名のデザイナーだったセシリエ・マンツの『カラヴァッジオ』を見て、これはヒットするかもしれないと思ったんです。基本、器具のデザインで光をどう演出するか、あるいは光学的に制御し、いかにバランスよく空間に光を届けるか、この二点が照明器具の大まかなデザインの方向性だと思います。そのなかで『カラヴァッジオ』は、ほとんどフォルムしか感じないシンプルなデザインと、光が真下にポトンと落ちる上品な佇まいが強く印象に残りました。初期の『カラヴァッジオ』はハイグロスブラックをメインで取り扱っていたので、空間にブラックアウトしたフォルムが並ぶビジュアルはとても新鮮でしたね。シェードの色と異なったカラーケーブルを取り入れたりと、それまでにないクリーンな雰囲気が際立っていました」

カラヴァッジオは現在フリッツ・ハンセンから発売されている。

藤井の思惑通り、『カラヴァッジオ』は日本でもヒットした。ワンダーウォールの片山正通が手がけた「DEAN & DELUCA」のリモデルプロジェクトのアイコンに選ばれ、フラッグショップの六本木店・名古屋店をはじめ同店の多くに「カラヴァッジオ」が採用されたことを契機に市場への認知が広がっていったのだ。

「デンマークの照明はそれまで構造的な工夫が凝らされたものが目立っていた印象だったのですが、ライトイヤーズがデビューした時期は、&TraditionやMUUTOなどが出てくる少し前で、ああいったトレンドの前線に立つようなデンマークデザインが注目される機運が高まっていた時期だったと思います。デンマークはデザイン大国ですが、先人たちが偉大すぎて、当時30代前半のセシリエ・マンツをはじめ、若い世代のデザイナーは常にプレッシャーを抱えていたのではないでしょうか。短期間で世界的な成功を収めたという意味でもデンマークデザインの未来を示したプロダクトだったと思いますね」

多様な個性が共存するポートフォリオ

現在、「リンインクープ」が取り扱う5つの海外照明ブランドは、国もカテゴリーも、そして使われるプロジェクトの方向性も異なる。ブランド選びの基準は、単にデザインの良し悪しだけではない。市場がその照明を受け入れられるようになるまで、たいてい長い時間を要する。数年で関係が終わってしまうのではなく、十数年にわたって共に歩める「信頼関係」を築ける相手であることを最も重視しているという。

昨年新たに取り扱いを始めた韓国の「ILKW.」は、そのポップでかわいらしいデザインに思わず目を惹かれる。ほかのブランドとは異なるその存在感は、「リンインクープ」の審美眼を象徴する存在と言えそうだ。

ILKW.のスノーマン。韓国の歴史ある電球メーカーIlkwang Lightingが2021年に始めたデザイン照明レーベル。

このブランドとの出会いは、リンインクープのスタッフが、プライベートで訪れたソウルの街角で「スノーマン」という照明を偶然目にしたことがきっかけだったという。藤井もユニークなデザインと可愛らしいキャラクターに惹かれ、取り扱いを決めた。

「一見ポップでカジュアルなんですけど、北欧の家具と並べても決して見劣りしないクオリティがあります。日本人はインテリアのブランドを揃えがちですが、そのなかにスノーマンのような肩の力が抜けたような、自由さをもたらしてくれる照明があっても良いと思うんです。ILKW.のメンバーも若く、これから韓国デザインを盛り上げていこうという気概のある方たちだったので、ぜひ一緒にやりたいと思いました」

技術の進化と変わらないロマン

かつてポール・ヘニングセンが数学的・光学的に光のデザインを突き詰めた時代から、LEDの普及やIOT化などさまざまな技術革新の波が押し寄せ、照明のデザインは大きく変化を遂げている。そんな照明の現状を、藤井はどのように捉えているのだろうか。

「今は調光機能やハイテクなLEDもどんどん進化していて、照明環境に関しては住宅も店舗も意匠器具がなくても成り立つ状況です。だからこそ照明のデザインはより抽象的、概念的なものになっていると感じます。極端に言えば『なくても困らないけど、なくてはならないもの』。そんな相反するイメージを兼ね備えているのが今の照明のおもしろさではないでしょうか」

LYFAは一度ブランドの歴史に幕を閉じたが、2020年に新たデザインディレクター、ラスムス・マークホルトの手によって再生。

同時に、藤井はこれからの照明に対する希望をこう語る。

「LEDに対応できなかったデザイナーは多いですが、逆にアントニ・アローラはLEDの登場によってさらに進化したデザイナーだと思うんです。やはりテクノロジーが進化していくことによって、デザインの考え方もどんどん変わっていく。昔は白熱電球に勝るものはないとみんなが思っていた時代がありましたが、もう色の演出性も制御性もLEDのほうがはるかに優れています。だからこの先照明の世界がどう進化していくか、私も楽しみなんです」

捉えどころのない光をどう掴み、どう暮らしに届けるか。その飽くなき挑戦の歴史こそが、照明デザインに尽きることのない多様さとロマンを与えてきた。テクノロジーの進化を経て、照明デザインはこれからさらに自由度を増し、私たちの想像を超えていくだろう。リンインクープが提示するこれからの「明かり」も、また少しずつ変わっていくのかもしれない。時代とともに変容するその進化の過程に、興味は尽きない。(文/AXIS 平木輝正)
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