三澤 遥さんデザインの建築物のようなメッセージカード

    一見、建築模型のようにも見える。実は、これは「かみの工作所」の新製品の1つ「Paper Construction(ペーパー・コンストラクション)」。紙でできている。デザインしたのは、デザイナーの三澤 遥さんだ。

    インタビュー・文/浦川愛亜、写真/中島丈晴

    ▲製品の完成に至るまでに40日ほどかかったという。

    建築物に現れる影に魅力を感じる

    三澤さんは、2014年から日本デザインセンター内に自身の研究室を構え、今年で3年目を迎える。各方面から注目を集める、期待の新星だ。

    大学ではグラフィックではなく、工芸工業デザインを学んだ。建築や家具が好きで、普段から建築の作品集をよく見るそうだ。興味深いのは、建築物を見るときの三澤さんの視点。多くの人は外界から内部に差し込む光に目がいきがちだが、三澤さんは建物を上から見たときの影に魅力を感じるという。

    「かみの工作所」の10周年を記念して現在開催中の「かみの重力」展(会期は11月6日まで)のために手がけた製品は、そんな建築物の影からインスパイアされたものだ。

    ▲試作の数々。苦心して開発したプロセスがうかがえる。

    美しい影とボリュームの質

    デザインで重きをおいたのは、形ではなく、影が形成するボリュームや物質性。影を美しく見せる表現やリアリティを追求するために、細部にわたってさまざまな工夫を凝らした。

    影の部分は、特色のうす茶色と2度刷りで表現。構造体がいくつも積み重なったときに生まれる影の濃淡や強弱、その輪郭をにじんだようにぼかしたところもある。折り重ねたときに見えるすべての面に、それぞれ密度を変えた網点を施した。意識しないとわからないほど繊細な濃度の差。それによって実際の目の前にボリュームがあるような不思議な感覚が生じる。上から下にいくにつれて建物の面の陰影が深く濃くなっていき、奥行き感が生まれている。

    光の当て方にも、試行錯誤を重ねた。最初は頭で考えながら手で影の部分を塗り、その後、CGを使って光を当てる最適な角度と高さを検証。影の出方を優先し、造形はそれに合わせて調整した。6種類ある製品は、すべて同じ角度からの光源で設計されている。

    ▲鮮やかな黄色が美しい、AXIS誌限定カラーを手にする三澤さん。

    AXIS誌限定カラーの「Paper Construction」

    採用した紙は、地券紙。主に本の背表紙に使用されるチップボールなど芯材と同じ素材でできている紙だ。表にはあまり出ない裏方的な存在の紙を、あえて素材感を生かしてそのまま使用した。

    「最初はファイルやポチ袋もつくろうと考えていたので、薄いものから厚いものまで種類が豊富にあったことや、素朴で気負いのない、ラフでタフな素材感に惹かれました」。建築物のコンクリートの質感を想起させる、素材の持つ色にも魅力を感じたという。

    11月1日に発売となったAXIS誌の最新号。増ページとして差し込まれたPaper Constructionには、限定カラーとして黄色を採用した。多様な色のなかから黄色を選んだのは、地券紙に印刷したときに発色が最も美しかったからだという。

    ▲影をガイドラインに組み立てていく。

    紙に触れて、自分の手でつくる

    AXIS誌限定カラーの製品は、ページの切り取り線にそって、組み立ててつくることができる。影の部分をガイドラインにして折り重ねていくと、平面の紙に建築物のような立体的な造形が浮かび上がり、質量や重量感を感じさせるものに。それを解体して広げると、たちまち質感も重量感も消えて、もとの平面の紙に戻るという不思議な面白さを味わうことができる。

    普段コンピュータやスマートフォンを触ることが多い人にとっては、久しぶりに紙に触れ、自分の手でものをつくる体験が楽しめるだろう。眠っていた感覚が呼び覚まされて、驚きや発見に出会えるかもしれない。

    ▲AXIS誌に差し込まれたPaper Constructionを自ら組み立て、手にする三澤 遥さん。

    あらゆる領域を超えたデザイン

    今回のPaper Constructionは、建築やグラフィックなど、多様なイマジネーションが集約された製品だ。三澤さんは、「デザインの境界線を超えていこうという意識は特にない」そうだが、世の中になかったもの、他にはないジャンルのものを考えることもあるため、「待っていてもクライアントがこないなら、自分で創造して展覧会を開いて世の中に発信していく」という姿勢を自らに課している。

    15年に松屋のデザインギャラリーで開催した、水槽の中の特殊な環境を探った「waterscape(ウォータースケープ)」もその1つ。デザインを考えるときにプロセスや本質の捉え方が詰まっているという。

    「仕事の大小にかかわらず、純粋に仕事の質で勝負しつづけるなかで、いかに社会に影響を与えるものをつくれるかということを常に考えていきたい。そして、実際に世に出た作品や仕事を通して、顔を思い出してもらえるデザイナーになりたい。自分が死ぬまでに、どれだけたくさんそういうものをつくれるか、挑戦しつづけたいと思います」。

    三澤さんの新作、Paper Constructionは、現在、アクシスビルの「リビング・モティーフ」で11月6日まで開催中の「かみの重力」展で展示販売しているほか、限定カラーが差し込まれたAXIS誌の最新号が、11月1日より全国書店にて販売中だ。詳しくは下記まで。

    かみの工作所の10周年企画「かみの重力」展
    10月19日(水)から11月6日(日)11:00-19:00まで、アクシスビル1階「リビング・モティーフ」にて開催。
    http://www.livingmotif.com

    三澤 遥/デザイナー。2005年武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科卒業。デザインオフィスnendoを経て、09年より日本デザインセンター原デザイン研究所に所属。14年7月より三澤デザイン研究室として活動開始。グラフィックからプロダクト、空間計画等、多分野でデザインを展開。主な仕事に、KITTE 丸の内のVIとエントランスサイン、TAKEO PAPER SHOW 2014「SUBTLE」への出品作「紙の花/紙の飛行体」、上野動物園の告知物「UENO PLANET」などがある。

    三澤デザイン研究所
    http://misawa.ndc.co.jp

    かみの工作所
    http://www.kaminokousakujo.jp

    福永紙工
    http://www.fukunaga-print.co.jp

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