デンソーデザイン部 シリーズ広告コンセプト/前編
「デンソーデザイン、いとをかし」

2014年5月発売のAXIS169号から掲載が始まったデンソーデザイン部によるシリーズ広告。今年で3シーズン目を迎えますが、昨年のロケシリーズをはじめ、その独自の表現が話題を集めています。デザイン部発信のオリジナル広告をつくることの意義とは何か。デンソーのクリエイティブディレクター 名木山 景さん、アートディレクターの春田登紀雄さん、デザイナーの森下奈緒子さん、松村 将さんにうかがいました。

デンソーデザイン、いとをかし

——デンソーデザインによるオリジナルのシリーズ広告が始まったのが、2014年5月発売のAXIS169号。1年目はデンソーのデザインセンス、つまりデザインフィロソフィーを表す6つのキーワードをもとに制作されていました。つづく2年目は、それとは大きく違う内容でした。

名木山 2014年の末にGマークの大賞をいただいて、デンソーデザインが世の中から注目されるようになりました。そして、2015年からさらに評価される組織になろうということで0から1、「01」をテーマに掲げました。デンソーというある種特殊な会社をもう1度見つめなおして、嘘のない、自分たちだけのオリジナルのコミュニケーションをつくってみようと始めたのが、2年目のシリーズです。

クリエイティブディレクター 名木山 景さん

——そのコンセプトについて教えていただけますか。

森下 コンセプトは「デンソーデザイン、いとをかし」です。今までデンソーはあまり多くを語ってきませんでした。社外の人から見ると、自分とは関係ない遠い製品をつくっている会社だと思われていたかもしれません。でも実際は間違いなくデンソーの製品は後ろから社会を支えています。そこで外からデンソーを見るのではなくて、デンソーの製品をとおして社会を見るということであれば、デンソーらしさが伝わるのではないかと考えました。製品と人、人がいる空気感を製品視点から見た6つのストーリーにして、デンソーが社会とどう関わっているかを、しっとりとした落ち着いた空間を切り取って表現してみました。

デザイナー 森下奈緒子さん

——日本全国あちらこちらにロケに行っていますよね。

名木山 はい。森下さんが考えたストーリーをもとにロケ地を探して、ロケハンにもかなり時間をかけました。春田さんのディレクションで、場所を見ながらさらに想像を膨らませて、ストーリーを練りこんでいきました。最初にいくつかのレギュレーションも決めました、地平線を中央に通すことや、ロゴの入れ方などです。撮影は社内のカメラマンです。

森下 ロケに行くと、その土地によって雰囲気が違いますし、いろいろな暮らしぶりがあることに気づきます。それらとデンソーの製品の特長をうまく重ねられないかと考えました。もちろん直接的には結びつかないのですが、独自の視点で製品の特長を発信していこうと試行錯誤したんです。

AXIS174号に掲載のシリーズの第1回。ロケ地は愛知県の安城市高棚町。左上のデンソーの製作所が見えます。大きな画像はこちらからご覧ください。

——では、AXIS174号に掲載のシリーズの第1回について教えていただけますか。まずロケ地は?

森下 愛知県の安城市高棚町というデンソーの製作所があるところです。仕事場から帰ってくる人の安心を「ZONE D」という人の動きを検知してセキュリティーするセンサーが見守っているというストーリーです。

——男性が写っていますが。

森下 名木山さんです。まだ定時内だったので人が少なくて、モデルになってもらいました。

名木山 ズラが飛ぶくらいの風で(笑)、むちゃくちゃ寒かった。

AXIS175号に掲載のシリーズの第2回。ロケ地は香川県の男木島。大きな画像はこちらからご覧ください。

——第2回(AXIS175号)は海です。

森下 香川県の瀬戸内海にある男木島というところです。本当に小さな町で、クルマが通れる道が港から続く一本道しかなくて、生協も5時には閉まる。でも、皆さん助け合って家族みたいな雰囲気で暮らしていました。そこで島の資源を大切にしながら、協力しあっている島の人々の暮らしぶりと、「Bidirectional Charger」という、EVから電気を供給していろいろなものにエネルギーを分配できる製品に共通点があると考えたのです。

——どうやってこの場所を見つけたのですか。デンソーの事業所があるとかそういうわけではないですよね。

森下 春田さんが知っていて。

春田 なんとなく知っていたんです(笑)。

——天気も良い感じで。

春田 直前は嵐の土砂降りでどうしようかと思ったのですが、一瞬の晴れ間で撮影できました。

アートディレクター 春田登紀雄さん

——第3回は路面電車が写っています。

森下 広島の市街で、早朝5時ごろです。広島は、朝に路面電車が動き出すとともに、街が始動していくイメージがあります。そこに「Electronic Control Unit(ECU)」という、クルマの頭脳となる製品を重ねました。

AXIS176号に掲載のシリーズの第3回。ロケ地は広島市街。大きな画像はこちらからご覧ください。

——撮影場所は初めから決まっていたのでしょうか。

森下 ロケハンに行って3日くらい広島の街を歩き倒しました。この前の広告の男木島の風景からちゃんとつながっていく、つまり水平で続けるとピッタリと合う場所をカメラマンとともに街を歩きながら探しました。大変でしたが、懐かしいですね。

AXIS177号に掲載のシリーズの第4回。ロケ地は名古屋の栄。大きな画像はこちらからご覧ください。

——そして第4回が都市ですね。

森下 名古屋の栄です。本社のある愛知に戻ってこようと思いました。製品は主力製品の1つである車載用メーター。夕方の帰宅ラッシュの時間に撮影しています。安全安心にパッセンジャーを思い通りのところに連れていくメーターと、少し早く終わってこれからどこに行こうかと考えている都市の夕方。その2つをつなげています。これも歩き回って場所を探しました。電子通信のようなニュアンスも入れたいと思っていて、ちょうど雨で光が反射したり、夕方になって光が浮き上がっていくところに情報通信を紐付けられないかと思いました。

AXIS178号に掲載のシリーズの第5回。ロケ地は沖縄県・久米島。大きな画像はこちらからご覧ください。

——第5回は南の島ですね。

森下 沖縄の久米島です。デンソーの実証実験設備があるので以前から知っていました。昔ながらの沖縄らしい風景が広がっている島です。それとクール便などのトラックに搭載する冷凍機ユニットをつなげました。トータルで3日間くらいロケをしています。思い出もいっぱいあって、どこで撮影しようかと悩みながらクルマで走っていると、トラクターに乗ったおじさんとすれ違ったり、そういった土地の魅力と食品を劣化させずに運ぶという役割を担っている冷凍機を結びつけて、魅力を伝えたいと考えたのです。

AXIS179号に掲載のシリーズの第6回。撮影場所は北海道・網走。大きな画像はこちらからご覧ください。

——すべて時間と手間をかけてロケをされてきたんですね。

名木山 最初からロケに行くこうと決めていたんです。最後は網走なんですが、ここはデンソーのテストコースがある土地。そこにヘッドアップディスプレイを紐づけました。フロントガラスなどに的確に情報を表示し、安全・安心に寄与してくれるものですが、シリーズを通していろいろな旅をしてきたけれど、さらに次に向かって走っていきましょうという想いを込めています。夕焼けと雪の中でクルマのライトがピカッと光って進行方向を照らし、ヘッドアップディスプレイが次のベクトルを示す。クルマもあまりカッコよすぎないように業務用のプロボックスを借りて、電灯が1個だけ点いている場所を見つけて撮影しました。

春田 実は、この撮影は第1回の後に終了していたんです。最後の回は年末に入稿予定だったので、その前の撮影だと雪がない可能性がある。だから最初と最後を撮って、その間を決めていったんです。

名木山 四季を感じさせるかどうかとか、その土地ごとの土や海、道路、草、雪といった素材感を踏まえて撮影地を選定していきました。

春田 せっかく行くなら、行きたいところにというのも多少ありました(笑)。

名木山 おいしいものを食べたいとか(笑)。

——コピーはどなたが書かれたのですか。

春田 森下さんが旅で思ったことを書きました。

——デザイン部としてこのオリジナルの広告シリーズをつくっていく意義はどこに感じていますか。

名木山 デンソー独自のコミュニケーションを自分たちの手でつくっていくことに意義があるはずです。外に任せるのではなく。自分たちでメッセージをつくっていくことが、これからデンソーブランドをつくっていくうえでとても重要になると当初から考えていました。
 案の定、この活動からいろいろなことが始まりました。この4月にはDPブランド推進室が立ち上がり、彼らも参加しています。DPとはデンソープロジェクトのことで、デンソーのブランドを考える組織です。各事業部からメンバーが集まって、デンソーブランドとは何か議論していきます。さらに今までなら広告代理店に依頼していたクリエイティブ機能を自分たちでやろうと、新たにカメラマンやコピーライターも採用しています。より専門性の高いメンバーでデンソーブランドをつくり上げていきたいと考えています。

春田 デンソーデザインの表現とは何だろうといつも考えていますが、デンソーは他社に比べて決して華やかではないし、デザインもいわゆる「カッコイイ」というステージで勝負していません。メンバーに対して常に言っているのは、カッコ悪いことをカッコよく見せていきたいということ。それがデンソー独自の表現につながっていくのではないかと思います。2シーズン目はそういったトライアルをしています。

後編につづきます。

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