INTERVIEW | グラフィック
2016.10.06 13:24
2014年5月発売のAXIS169号から掲載が始まったデンソーデザイン部によるシリーズ広告。今年で3シーズン目を迎えますが、昨年のロケシリーズをはじめ、その独自の表現が話題を集めています。デザイン部発信のオリジナル広告をつくることの意義とは何か。デンソーのクリエイティブディレクター 名木山 景さん、アートディレクターの春田登紀雄さん、デザイナーの森下奈緒子さん、松村 将さんにうかがいました。
2シーズン目のコンセプトについて聞いた前編につづき、今回は現在展開中の3シーズン目についてです。
AXIS180号に掲載の3シーズン目の第1回は4ページ構成。頭の見開き2ページ(いちばん上の画像)では、「技術は、幸福に向かって走る。」と今回のシリーズのコンセプトと想いと力強く宣言しています。大きな画像はこちらからご覧ください。それに続く見開き2ページでは、「その部品は、環境を守るために完全燃焼する。」というコピーとともに、「コモンレール」をフィーチャー。大きな画像はこちらからご覧ください。
ART AND TECHNOLOGY
——180号から3シーズン目が始まりました。このコンセプトを教えてください。
春田 コンセプトは、「技術と技能」で、デンソーをそのまま見せていこうと考えました。今まではデザイナーがデザインした製品を題材にしてきましたが、今回のシリーズではデザイナーが関与していない製品を取り上げています。デンソーの研ぎ澄まされた技術力を伝えていきたい。デンソーの製品は今までにない素材と生産技術を用いて高い品質で量産していく、世界最高峰のプロダクトデザインともいえます。そいう人の技と技術の融合を「ART AND TECHNOLOGY」というテーマで表現するシリーズです。今回は、われわれデザイナーがそれを伝えていく側になります。
初回で取り上げたコモンレールは、エンジン部品の1つで燃料を噴射するものです。これは、2500気圧をためて霧状に噴射させることで燃料を無駄なく燃やしきるというグリーンディーゼル技術を実現した世界初の製品。気圧をためる造形と、ためるために真ん中に1本穴が空いていて、それらが垂直に交わるためにアールをつける研磨技術など、優れた人の技と生産技術、エンジニアリングがあってこの製品が生み出されています。研ぎ澄まされた機能美を感じます。 そのものの機能を背景の描写でも表現することで、製品の持つ技術を表現していこうとしています。
クリエイティブディレクターの名木山 景さん(右)とアートディレクターの春田登紀雄さん。
松村 ふだん目にふれないものにスポットを当てようというのがこのシリーズらしいところだと思っています。普通のプロダクトデザインであれば、見せることを前提につくられていて、そこに美しさがある。そうではなくて、単純に機能を追求した究極の形が実は美しい。デンソーのものづくりはそこにあるのではないかと思っています。ふだん見えてないものが実は美しい。そして、それをつくり手ではなくて、これらには関わっていないデザイナーの目線で見ていくのがとても面白いんです。
デザイナーの松村 将さん。
名木山 現物を見ると鼻血が出そうなくらいすごい技術がそこにあるのですが、その凄さと美しさをどう見せていくか、毎回とても悩みます。やっていくうちに、思ったほど多くを伝えられないことも学びつつ、こだわってつくっています。
それと言葉の大切さですね。デンソーのことをちゃんとより良く伝えたいけれど、嘘はつきたくないし、言葉はとても難しい。ひょっとしたらビジュアルより言葉のほうが大事かもしれない。
——このシリーズについて各事業部からはどのような反応がありましたか。
春田 こういうことをやっているので、ぜひ何か製品を紹介してください、というと、事業部の人たちも盛り上がって議論してくれます。182号で紹介したエバポレーターのときは、事業部で「うちは何を出すんだ」とたくさんの人を集めて話し合って、代表選手を決めてくれました。徐々にわれわれの取り組みが社内に広がっているのを感じます。
AXIS181号に掲載の第2回では、「発電効率の技術が、大輪の花を咲かせた。」というコピーとともに、エンジンの回転を動力として電力をつくる「オルタネータ」をフィーチャー。大きな画像はこちらからご覧ください。
——事業部の方々とは普段はあまり交流がないのですよね。
名木山 デザインが関わっていないので、従来はあまり会ったことがありません。でも面白い人がいっぱいいる。そんな人たちにこの広告シリーズをとおして会って話をする。デンソーのブランドを考える上でも意義があることだと思います。
AXIS182号に掲載の第3回では、「冷たい風は、細部に宿る。」というコピーとともに、カーエアコンの核となるアルミ製超小型フィン搭載の「エバポレータ」をフィーチャー。大きな画像はこちらからご覧ください。
——これらの広告はその他でも転用されているのでしょうか。
名木山 中部国際空港セントレアの交通広告にも使っていますし、今後もいろいろ活用の可能性があると思います。
AXIS183号に掲載の第4回では、「排気ガスを逃がさない、ハニートラップ」というコピーとともに、排気ガスを浄化する陶器製の部品「モノリス」をフィーチャー。大きな画像はこちらからご覧ください。
——単純に広告としてではなく、社内を巻き込んでのブランドづくりのもとの1つになっていて、AXIS編集部としても嬉しい限りです。
名木山 自分たちのコミュニケーションスキルを確かなものにしていくための活動だと思っています。自分たちでロケに行って、撮影して、言葉を考えてと、コミュニケーションのプランニングをすべてやりきったあとに、いろんな課題が見えてきました。言葉はやはりプロの力が必要だと感じたり。そうした部分ではプロの力も借りつつ、自分たちの感度を高い状態にして、それぞれの専門性をいかに高めていけるか。それが1つのトライアルなのです。プロダクトデザイナーが広告をつくっているということではなくて、コミュニケーションにおいても1つの専門性を打ち立てたいと考えています。
こうした活動を続けていくことで、デンソーデザイン部としては、あと数年でプロダクトデザインとコミュニケーションデザインの機能がフィフティーフィフティーのバランスに持っていけそうな気がしています。コミュニケーションがプロダクトと同じ位置にあってブランドづくりに貢献していければと思います。
——ありがとうございました。
前編はこちら。
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