vol.5
「クリエイターインタビュー:ハイヤー」

インディペンデントなクリエイティブ文化をリードする
HJGHER ハイヤー

▲ ジェリー・ゴー(左)とジャスティン・ロング

インタビュー・文/大島さや


2006年にジャスティン・ロング(Justin Long)とジェリー・ゴー(Jerry Goh)によって設立されたクリエイティブエージェンシー。クライアントのためのブランドコンサルティングやデザインワークを行う傍ら、シンガポールのアートやデザインを発信するためのプラットフォームの必要性を感じ、インディペンデント誌『UNDERSCORE』を刊行し始めた。同誌のコンセプトを、彼らは「日常生活のなかで、よりシンプルで良いものを求める価値観を共有すること」と語る。手触りのよい紙を選び、オリジナルのフォントとシンプルでクリーンなレイアウトによるスタイルが評価され、D&AD、ADCなど数々の賞を受賞している。現在はフリーペーパー版の『THE U PRESS』が加わったことで、より若い層にも届くメディアとなった。

▲ 『THE U PRESS』(Uにアンダーバー)


2009年頃からレストランやカフェなどが急激に増え出したことを「ムーブメント」と捉える彼らは、インディペンデント誌の制作で培ったキュレーション力やグラフィックデザインのセンスを生かし、空間デザインや期間限定ショップの企画なども手がけている。シンガポールを含む東南アジアでは珍しかったポップアップショップをいち早く取り入れ、「U Factory」として成功を収めたのも彼らだ。

▲ アート、フィルム、音楽、デザイン、食、本をテーマにしたショップ「U Factory」。2013年10月から約3カ月間オープンした


2012年には、これからのシンガポールの文化を担う、独自の目線で選び抜いた計120組のデザイナーや建築家、アーティスト、アニメーターなどを紹介する『Creative Cultures: Singapore Showcase』を刊行。ゴールドのハードカバーをスクラッチして文字を浮かび上がらせる仕掛けは、シンガポールのクリエイティブが少しずつ世界に向けて明らかになっていく未来を暗示させている。さらに目覚ましく成長するクリエイティブ産業を再度まとめようと、現在2冊目を計画中だという。

▲ 『Creative Cultures: Singapore Showcase』。編集にはCLEAR EDITION & GALLERYの中牟田洋一も参加


高級住宅地のホーランドビレッジにオフィスを構え、周辺にさらに多くのデザインオフィスやインディペンデントなショップが集うべくサポートも行う。これはHJGHERの得意とするキュレーションの一環であり、よりダイナミックでインパクトのあるデザインを文化としてシンガポールに定着させるための戦略とも言える。

3月に開かれるシンガポール・デザイン・ウィークの会期中には、リノベーションしたばかりの映画館を会場に、『Kinfolk』をはじめとした国内外のインディペンデント誌を集めたカンファレンスに参加予定だ。

▲ 日中はコーヒーショップ、夜はバーとなる「Bincho」。昔ながらのコーヒーショップの風情を残すなど、細長いスペースを現在、過去、未来の3つのコンセプトでリノベーションした

▲ ブランディングを手がけたセントーサ港に面した「Kith Sentosa Cove」。トム・ディクソンのペンダント照明やスペインのアンドリュー・ワールドの家具などを採用している


●本シリーズは「シンガポールデザインレポート」からご覧いただけます。