vol.3
「クリエイターインタビュー:ネイサン・ヨン」

シリーズ3回目からはシンガポールのデザイナーや建築家のインタビュー。家具デザイン界を牽引するネイサン・ヨン、「パークロイヤル・オン・ピッカリング」をはじめ今最も注目を集める建築家ユニットWOHAら、4組を4回にわたってご紹介する。

インタビュー・文/大島さや

▲ ランプシェードが開閉する「パラシュート(Parachute)」


世界に向けて発信する、家具デザインの開拓者
Nathan Yong ネイサン・ヨン


シンガポールの高等専門学校、テマセク・ポリテクニックで工業デザインを専攻したネイサン・ヨン。1991年の卒業後、家具のバイヤーとしてアジアの国々をまわるなかで、高度な技術を持つ職人や工場とつながりを持ち、それをきっかけに自らもデザインを始めた。アジアの職人たちがつくるオリジナル家具ブランド「エア(AIR)」を立ち上げ、同91年には家具店「アートディビジョン(Art Division)」をオープン。ヨンは、当時のシンガポールを次のように振り返る。

「その頃のシンガポール人たちは、海外のデザイナーが手がけた家具しか求めていませんでした。店内の商品を私自身がデザインし、アジアで生産していると知ると、黙って店を出て行ってしまう人がほとんどでしたね」。

その後、海外で彼のデザインが受け入れられるようになると、ヨンはアートディビジョンを売却し、デザインの修士号を取るためにオーストラリアのニューサウスウェールズ大学院に入学。卒業後は自国へ戻り、フランスのリーン・ロゼをはじめとするヨーロッパブランドにデザインを提供し始めた。


▲ 「エリザベス(Elizabeth)」(リーン・ロゼ)

▲ 「スタック・テーブルズ(Stack Tables)」(リビングディバーニ)


また、新たに設立した木製家具のブランド「フォルクス(FOLKS)」では、ヨーロッパ市場の開拓にも注力。アジアの伝統的な木製家具でありながら現代のモダンなインテリアに溶け込むようなデザインを特徴としている。

「中国、ベトナム、フィリピン、マレーシア、インドネシアといったFOLKSの生産拠点に対し、シンガポールはどの国にもアクセスがいい。生産者も海外のデザイナーと仕事をしたいと願っています。しかし、このようなメーカーが育つには時間がかかる。生産者たちをゆっくりとデザインの道へガイドするように、革命を起こすのではなく、徐々に進化するような気持ちで協働することが重要です」。同時に人口約500万の小さな国シンガポールのデザイナーたちは、今後より国外の市場を意識しなければいけないと強調した。

2004年のインドネシアの津波被害のときには、不足した棺の生産システムを提案して国内のデザイン賞を獲得するなど、自国のデザイン振興にも寄与している。

「今の若い世代はローカルのデザイナーに対してもオープンマインドで、ヨーロッパで活躍するシンガポール人デザイナーが増えたこともあって、信頼性は以前とは大きく違います」とヨン。昨年発表した著作『BEING:The Thoughts and Work of Nathan Yong, 2006 – 2014』では、彼がアジアの職人たちと家具づくりを始めた頃から現在までの貴重なストーリーが、スケッチなどとともに収められている。

▲ 棺「バイオポッド・コーフィン(Biopod Coffin)」

▲ 著書『BEING:The Thoughts and Work of Nathan Yong, 2006 – 2014』より


●本シリーズは「シンガポールデザインレポート」からご覧いただけます。