we+のふたりが語る、“”新しい視点”の見つけ方

▲we+の林登志也さん(左)と安藤北斗さん。

東京都立大学大学院 システムデザイン研究科 インダストリアルアート学域の授業「インテリアデザイン特論」において、学生の皆さんが3チームに分かれ、第一線で活躍するデザイナーや建築家、クリエイターの方々にインタビューを実施。インタビュー中の写真撮影、原稿のとりまとめまで自分たちの手で行いました。シリーズで各インタビュー記事をお届けします。

we+のふたりが語る、“”新しい視点”の見つけ方

林登志也さんと安藤北斗さんにより2013年に設立されたwe+。リサーチと実験を基にした独自の制作・表現手法で、新たな視点と価値をかたちにするコンテンポラリーデザインスタジオです。人工と自然が融合した新たなものづくりのあり方を模索するおふたりに、we+独自の考え方とその変遷について聞きました。

自然現象という共通言語

——we+の作品には自然現象が扱われることが多いのですが、自然現象や時間経過を切り取った作品のアイデアはどのようなところから生まれるのでしょうか。

安藤北斗 間違いなく言えるのは実験です。手を動かしながら見つけていくというのは、すごく重要なことだと考えています。僕らは最初に手を動かして、素材を触ったりして、これってどういうことなんだろうということを頭で考えます。そのうえでコンセプトとアウトプットが両輪で動いていかないとダメだと思っています。自然現象をなぜ取り入れるのかについては、共感という言葉をすごく大切にしています。何かをつくったとき、それを通して人の感情を揺さぶりたい。そのためにはある種の共通言語のようなものを作品に入れる必要があると考えています。そのひとつの要素が自然現象なんです。

林登志也 時間やゆらぎも大切だと思っています。自然現象は昔から人間の身近にあって、常に変化し続けているものですが、潮の満ち引きや、日の出・日の入りの雲の動きはずっと見てしまう、そんな不思議な感覚ってありますよね。そういうものに自分たちも魅了されている。だからこそそれを取り入れるということが言えると思います。

——そういった現象や切り口はどのようなところから見つけてくるのでしょうか。

 日常で注意深く身のまわりを見るということです。でもたぶん見逃してしまうことが多い。それが何かになるというわけではないけれど、ちょっとした動きを不思議に思えるというか。なんだろうと思う気持ちを忘れないということなんです。なんだろうの中に改善しようとか、もっとこうなればいいのにとか、これって素敵だから取り込もうという考えが生まれる。なんだろうって重要です。

安藤 なんだろうって注意して見るんだけど、だいたいすぐ忘れる。でもそれでいいと思っています。血眼になって何か現象を見つけようとすると、脳がパンクしちゃうんです。そんな覚えられないし。でも、ある瞬間に、ハッと昔の記憶や体験と結びつくことがあるんです。本当に面白いものって、脳の中にちゃんと残っていて、どこかのタイミングで紐づく。実験しながらそれを待っているという感じはあります。

▲「Swirl」(写真:林雅之)

物質的な美しさは生きる欲望に近しい

——昨今のコロナ禍で世の中が以前とは大きく変わりましたが、we+のデザインや心境に変化はありましたか。

 うちのスタジオの場合、リアルなものと対峙して、実験をして、そこから新しい現象を見つけて、作品に昇華するというプロセスが非常に重要なので、別のやり方に代替しようがないんです。ものと対峙してそれでどうするか、そこの大切さには改めて気づかされました。

安藤 コロナ、大変ですよね。この状況だからこそ、フィジカルなもの・場所・体験というのが、今までにも増して重要になってくるという気はしています。インターネットを通じたものづくりやテクノロジーを介したコミュニケーションでは伝えられない物質感みたいなものが確実に存在している。場の雰囲気やものの手触り、肌で感じるもの、温度感……。テクノロジーを活用すれば、それらをあえてカットして、ものすごく利便性を高めることもできますが、そのカットされた情報が逆に貴重なものになっている気はします。だからフィジカルなものに対して、自分たちは真摯に取り組んでいこうと思っています。

——今後 “会わない”状態がずっと続くと、そのフィジカルな美しいものの共有ができなくなっていくと思います。例えば、“水の流れは美しい”という感覚を持つコミュニティと、そうでないコミュニティとの断絶が起きる。そんななかでフィジカルな美しさを伝えていくことはできるのでしょうか。

 コミュニティはどんどん分断していくし、主流がなくなるというのは、その通りだと思うんですが、水や空気のレベルだと、コミュニティが分かれる以前に必要なものとして存在するのではないでしょうか。生きなければならないという欲望とほぼ同義なレベルで水はそこにあると思うんです。どんなにコミュニティが分断したとしても、その魅力に抗えるような人間って存在しないのではないかと思います。ほかにも、風や光とか、それがないと生きていけないようなものへの関心は、コミュニティが分断したとしても崩れないと思っています。それよりもレイヤーが一段下がった具体的な趣味・嗜好のレベルでは、状況が全く違ってくる可能性はありますよね。

——これから先、we+はプリミティブな方向、もしくはその逆、どちらに進んでいきますか。

安藤 それは僕たちにもわかりません(笑)。今はすごくプリミティブで身体性のあるものに興味があるけれど、デザイナーとして作家性というものはどんどん変容していくし、アップデートされるべきだと思っています。どの方向にアップデートしてくのか、その設計図を描くタイミングでもない。5年後、10年後に作風がガラッと変わっている可能性もあるし、ずっとステイしている可能性もある。けれど、アップデートは何かしらのかたちでやっていくでしょうね。

▲「Drought」(写真:林雅之)

遠くに”タネ”を蒔くということ

——おふたりはお仕事やトークショー、大学での講義などで若いデザイナーやデザインを学んでいる学生と触れ合う機会があると思うのですが、そのときに自分たちとの違いのようなものを感じることがありますか。

安藤 学生時代の作品やプロジェクトというのは花の”タネ蒔き”みたいなものだと思っているんです。いちがいには言えませんが、今の学生の傾向として、自分の手の届く範囲にそのタネを蒔いているような気がする。すると自分のまわりはそこそこ美しい花が咲いて、とても居心地がよくなる。そして安住してしまう。一方で、ずっと遠くのほうにタネを蒔こうとすると、そこまで無理して歩いて行かなくてはならない。途中で怪我をするかもしれないし、へんぴなところで野宿するかもしれません。ある種の冒険ですよね。でも一度ある地点までたどり着いて後ろを振り返ると、そこにはわだちができている。これから先、そこまでだったら楽に行き来ができるようになるんです。そういう感覚を持ちながら、意欲的に未知の領域に挑戦して欲しいなと強く願っています。

 僕は今、大学の非常勤講師をしています。今の時代、アプリケーションがすごく進化しているし、それを使える学生も多い。昔に比べると圧倒的にインターネットというかコミュニケーションがいきわたっているので、情報を自分から取りに行かなくても、ちょっと検索するだけですんでしまう。僕らが学生の頃はインターネット黎明期で、今と比べると海外の情報も得ることが難しかったんです。だからどうしても自分で考えざるを得なかったし、盲目的にやっている人も多かった。今は、盲目的に、これと決めたことをずっと深堀りしていける人が出現しづらい環境になっている。失敗はあるかもしれないけれど、気付いたら人が掘れていないところまで掘っていて、よく見たら唯一無二の存在になっているということが起こりづらい。これはデザインに限ったことではなくて、すべてにおいてそうです。でも、ずっと掘っていける人、そしてその先で他のものと結びつけられる人が強いんじゃないかと僕は思います。

安藤 われわれの場合は、フィジカルな素材やツールを使ってとにかくスタジオで実験をしますが、そのやり方はインターネットには載っていません。例えば、こういう銅線とはんだを溶け合わせるようなことをしている人はネットを探してもなかなか見つからない。だから、自分たちで手を動かして、ものをつくって、頭を働かせることはすごく重要だと思っています。ひとつのものを掘り下げていくためには、頭と手と足、全部動かしていかないとダメなんです。

 デザインというと、スタイリングすることと同義だといまだに思われている。でも時代がどんどん変化している今、デザイナーがすべき仕事は新しい視点の提示だと僕は思っているんです。じゃあ新しい視点をどうやって見つけるのかと言えば、歴史や物事を知っていることが大前提にある。特に20代は時間もいっぱいあるわけだから、いろんな経験すればいい。そしてなにか気になったら深いところまで掘っていく。すると新しい視点が見つかるんじゃないかなと思います。(取材・文・写真/東京都立大学 インダストリアルアート学域/赤木勇太、石川真優、小沼雅直、是松理央、丁羽南、凌佳鑫、劉昊宸)End


林登志也/1980年富山県生まれ。一橋大学卒業。学生時代より舞台演出に携わり、広告会社等を経て、2013年we+ inc.を共同設立。デザインリサーチを起点とする作品制作やインスタレーションといった領域横断型のアプローチから、ブランディングやコミュニケーション戦略まで、幅広い分野に精通し、各種プロジェクトを手がける。国内外の広告賞、デザイン賞等受賞多数。法政大学デザイン工学部兼任講師。その他教育機関での講師、セミナー等での講演も行う。

安藤北斗/1982年山形県生まれ。武蔵野美術大学中退、Central Saint Martins(ロンドン)卒業。視点と価値の掘り起こしに興味を持ち、プロジェクトにおけるデザインリサーチやコンセプト開発、空間〜立体〜平面のディレクションやデザインなど、複合領域的に手がける。2013年we+ inc.共同設立。国内外のデザイン賞を多数受賞。武蔵野美術大学空間演出デザイン学科非常勤講師。他複数の教育機関で講師を務める。iF Design Award(ハノーバー)、D&AD Awards(ロンドン)審査員。

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