Autodesk Automotive Innovation Forum Japan レポート 後編
「オートデスクの製品戦略」

2013年10月11日に開催された「オートモーティブ・イノベーション・フォーラム」では、米国オートデスクの副社長であるブレンダ・ディシャー氏が来日。基調講演の結びとして「オートデスクの自動車業界におけるビジョン」と題して、同社の戦略を披露した。

→前編「次なるカーデザインとは」はこちら

ディシャー氏はまず自動車産業を取り巻く「サステナビリティ」「グローバリゼーション」といったメガトレンドを解説。来場者と現状認識を共有した。

ユニークな指摘は「デモグラフィ(人口動態の変化)」が自動車社会に及ぼす影響。都市はクルマに合わせてデザインされてきたが、高齢化などが予測される今後の各都市では、他のさまざまなモビリティの手段が先に検討されるという。

また、世界の人々がソーシャルなコミュニケーションをより重視し、スマートな購買行動を取ることに注目。高額商品を買う際にもオンライン上で検索とリサーチを行い、事前に調査、決定する時代になったと語る。

消費者の質が上がった時代、メガトレンドに対応してより魅力的なクルマを生み出すために、デジタルソフトウェアを活用して優れたデザインやサービスを生み出さねばならないという主張だ。カーメーカーは、ブランドが顧客に語りかけるような圧倒的な説得力を持つ必要がある——同社ソフトウェアを用いたデザイン開発事例を動画のビジュアライゼーションでプレゼンテーションした。

「デザイン段階の早期で正しい決定を行うことで、物理的なコストが掛かるプロトタイプを製造しなくて済む」とディシャー氏。同社の強みは解析・シミュレーションも物理プロトタイプによらず、デジタルプロトタイプ上で行えることにある。これは工場のレイアウトにおいても同様だ。

午後のセッションでは、同社製品のカテゴリーごとに「デザイン・CG(ビジュアライゼーション)」、「解析・CAE(シミュレーション)」、「工場レイアウト(ファクトリーデザイン&プランニング)という3つのトラックに分かれてセミナーが催された。

デザイン・CG(ビジュアライゼーション)のトラックに登場したのは、オートデスクオートモーティブチームのプロダクトマネージャー、マット・シダーバーグ氏。20リリースを迎えたデザインソフト「Autodesk Alias」の今後の戦略を語った。

まず、3Dでの設計の問題点として、形が見えてくるまでに時間がかかることを上げた。そのため、ヨーロッパではポリゴンでの初期段階のデザインを手がける会社があるという。

シダーバーグ氏いわく、3次元の形を速くつくりたいなら、同社の3Dモデリングソフト「Autodesk MAYA」を使うのが最適だが、デザイナーがトリムしながらモデリングするということは現状ではできない。曲面構造を定義するNURBS(ナーブス)曲線と、ポリゴンをうまく組み合わせられないか。そのハイブリッドモデリングをAliasと組み合わせて実現させるプロジェクトが、α版のテストレビューまで漕ぎ着けたという。

この「T-スプライン」と呼ばれるデータ形式のデモンストレーション映像では、ドアミラーを3Dで形作りながら、同時にディテールを細かくトリミングして詰める様子を再現。今後のAliasはTスプラインにスカルプティング、メッシュ、ソリッドを組み合わせ、この方向で進化していくと明言した。次なるフェーズでは、NURBSやベジェ曲線を組み込む予定だという。

デザイナーがよりデザインに集中できる環境を目指し、将来的にはスケッチデータとの統合、リバースエンジニアリングの機能付加、ビジュアライゼーションのさらなる進化へつなげていく計画だ。

また、デザイナー以外も含めた自動車関係者向けに、新しくAliasのトレーニング教材を書き下ろしている構想も発表された。

通常のワークフロービデオ、操作テクニックのアドバンスビデオ、Aliasの基礎知識を網羅したドキュメントの3種類からなり、将来Aliasの英語版から搭載開始予定。日本語版への要望を壇上から聞いたシダーバーグ氏に、会場は拍手で応えた。

そのほか、ビジュアルアセットマネジメントというテーマで、デザインプロセス全体を資産と捉え、デジタル管理することで生産性を向上させる方法も紹介された。

かつてのカーデザイン部署は、クレイモデルを前に議論を戦わせた。デジタル化した環境でも、ほとんどデザインツールを扱えないマネージャーもデザインが立ち上がっていく様子にデザイナーやモデラーと伴走できるというアイデアだ。

2時間近くのセッションは、これから3D ソフトウェアと呼ばれていた製品がマルチプラットフォームとして機能していく未来を垣間見る内容だった。(文・写真/神吉弘邦)

当日のセッションのいくつかは、オンラインで視聴することができます。
http://www.autodesk.co.jp/MFGOnline (会員制、登録費無料)