Autodesk Automotive Innovation Forum Japan レポート 前編
「次なるカーデザインとは」

2013年10月11日、3Dソフトウェアメーカーのオートデスクが六本木アカデミーヒルズで開催した「オートモーティブ・イノベーション・フォーラム」は、主に自動車業界に携わる人々に向けたセッションだった。

冒頭で日本法人の代表取締役社長、ルイス・グレスパン氏が挨拶。「業務に活かせる情報を吸収して、楽しんで帰ってもらいたい」との言葉通り、カーデザインにおけるデジタルエンジニアリング、ビジュアライゼーション、バーチャルプロトタイプの現状を報告するセミナーは、懇親会までの1日を通じて、最新の情報が凝縮されたものだった。

基調講演では、トヨタ自動車を経て2005 年にznug design(ツナグデザイン)を設立した根津孝太氏が登場。「つくるをつくるツール☆ リアルなものづくりにつなぐ、チームとツールのつながり」と題した講演を行った。

電動バイク「zecOO(ゼクウ)」を独自で開発した根津氏は、独立直前にミラノサローネへ出展したモデルから、年代を追って作品を解説。3D CGソフト「Autodesk Alias」を使ったものづくりについて、エンジニアや職人とのやり取りを具体例に基づいて詳細に解説した。

2D CADを使っているある中小企業の工場に、根津氏が3D CADソフト「Autodesk Inventor」の導入を薦めた際には「3Dはハードルが高いと思われがちだが、ものづくりがわかっている人ほど習得スピードが速かった」との感想を得たそうだ。

3Dデータで設計と製造をすることのメリットには、意匠登録を早めに上げられる、ハンドメイドとの融合が図れる、フルデジタルな制作環境でも相手に合わせられる、といった特徴が挙がった。

zecOO の設計をした際には、3Dプリンターで1/6スケールのフレームモデルも出力。模型を目の前にしながら確認できたため、エンジニアとの意思疎通が容易になる効果もあった。

根津氏は「例えば着色したモデルは、ものづくりに対するクラウドファンディングのインセンティブ(小口投資家への御礼)にもなるだろう」とのアイデアを披露する。ベースに3Dデータを持っていることで、CGムービーの制作にも使える。実際、zecOOは著名な音楽グループの映像にも登場した。http://www.youtube.com/watch?v=KIcwb_Wmzro

「ものづくりは人のつながりと表裏一体」「つながりを生み出すツールこそクリエイティブの起点」と強調した根津氏の言葉が印象に残る、情熱に満ちた講演だった。

次に登壇したのは、日米を拠点に各国で取材活動を続けるジャーナリストの桃田健史氏。元レーシングドライバーの肩書きを持つ桃田氏の取材対象は、先進国から新興国へのパラダイムシフト、EV などの車両電動化、そしてクルマと情報通信といった幅広いテーマだ。

今回の演題は「ウェイクアップ! 世界自動車産業の知られざる実態」。中国で「バーリンホウ」と呼ばれる80年代生まれの新世代に向けたクルマが登場していることの報告、ヨーロッパのカロッツェリアがサテライトオフィスをモロッコに置き始めた動きなど、世界を股にかけて活躍するジャーナリストならではの新鮮なトピックが並んだ。

なかでも多くの時間を割いたのが、テレマティクス(=テレコミュニケーション(通信)+インフォマティクス(情報工学)による造語)に関する最新報告だ。

来年にかけての注目は、国内外のメーカーがこぞって実現を目指している自動運転支援システム。加えてアップルの「iOS in the car」だ。情報通信と統合された「スマホ化した車内空間」は、まるで乗員がスマートフォンの中にいるイメージに変化するという。

桃田氏は「各メーカーは2016年までの部材調達を終了しているだろう。内装もガラリと変わるなら2020年あたりではないか」と分析。「近い将来、ヨーロッパの影響を受けた中国車のインテリアが劇的に変化し、日米のメーカーが青ざめる日が来る」「地図(データ)を牛耳る者がクルマを牛耳る」とも予言した。

一般の人々の要望として「インテリアに日々の生活を持ち込みたい」という根強いニーズも触れ、「これからの車内空間は何でもあり。ガラッと変わるチャンスだ」と締めくくった。

合間の休憩時間には、ハードウェアメーカー、販売代理店が製品デモンストレーションを実施。4kディスプレイとラップトップ型のワークステーションを組み合わせた展示が複数見られた。

ビジュアライゼーションはソフトウェアとハードウェアの進化を迎え、新たな洗練さを獲得しつつあることを感じさせる熱気だった。(文・写真/神吉弘邦)

→後編「オートデスクの製品戦略」に続く