カラフルだけでは語れない、メキシコカラーの魅力
-後編-

▲キシコ国章のモチーフとなっているアステカの首都テノチティトラン(現在のメキシコシティ)創設を想起させる刺繍 メキシコシティ・フォークアート美術館 “Museo de Arte Popular”

前編では、メキシコの死者の日や手工芸品を例に、メキシコカラーの魅力について紹介しました。今回はメキシコ出身の友人から聞いた色彩に関する意味や、地域における色彩の特徴などにフォーカスしたいと思います。

メキシコのカラーは“色が色を生かし合い、調和・抑揚の中で生き生きとしている”と前編でもお伝えしましたが、メキシコには「Colores Vivos」という言葉があるそうです。
「Colores Vivos」とは、無彩色の白・黒・グレーが混ざっていないコントラストが強い色(原色)を総称し、これを直訳すると「生きている色」となります。実際のところは「鮮やか」「原色」の意味に近いようですが、筆者が以前より感じていたメキシコカラーならではのイキイキとした元気な印象は、この「鮮やかなコントラスト」というColores Vivosの概念にも通ずると納得できました。

メキシコにおける色彩のルーツ

筆者はメキシコ原住民にとっての色は「神・方向・自然の力の象徴」であると知り、古来より特有の色彩感覚を形成しているというメキシコの色彩のルーツについて友人に話を聞いてみました。

多神教のアステカ王国で信仰され、神殿にも祀られた主要な神のひとつに4兄弟神のテスカトリポカがいます。テスカトリポカは、赤、青、白、黒の色の意味を持つ神で、黒神が特にこの名で呼ばれ、北の方位の神とされているそうです。赤は「復活・出産・若さ・光」、青は「熱・火」、黒は「夜・闇・寒さ・戦争・死」、白は最も複雑で「誕生と退廃・起源と終わりの謎・古代と病気」を表します。原住民にとってこれらの4色は、神秘的で根源となる色であり、現代のメキシコ人にもこうした感覚はある程度残っているだろうと教えてくれました。

▲緻密な絵付けの陶器 メキシコシティ・フォークアート美術館 “Museo de Arte Popular”

工芸品から見えるメキシコの多様で重層的な魅力

色表現の魅力が詰まっているもののひとつに民芸品(工芸品)がありますが、メキシコの北部、中部、南部といった地域によっても特徴があるようです。

例えば陶器で比較してみると、北部のマタオルティス陶器は、黒や茶色といった大地を感じる力強いカラーや流れるような曲線に緻密な柄といった独特な美しさが特徴です。中部のセルビン焼きなどは繊細で緻密なパターンに鮮やか~淡い色調が印象的であり、南部のバロ・ネグロは、黒一色の中に艶や光沢を生かしながらの彫り表現が特徴です。地域によって多様な表現があることがわかります。

●北部 Chihuahua 
マタオルティス陶器
パキメ文化で使用されている先祖代々の技法が受け継がれ現在も作られているマタオルティスと呼ばれる陶器。黒や茶色といった大地を感じる力強いカラーと白、柄と間合い、曲線と柄の融合が美しい。

●中部 Guanajuato/Puebla
セルビン焼き | Guanajuato
Javier Servín(ハビエル・セルビン)氏の工房で作られている陶器で細かい絵付けが特徴。タイルのようなぷっくりとした光沢のある塗料が塗られてまるでレースのような繊細なデザイン。

タラベラ焼き | Puebla
スペインのマヨルカ焼きの技術とスペイン植民地時代以前からあった陶器づくり文化が融合した歴史ある陶器。陶器を火にかける前に顔料で絵付けをし、焼き終えると鮮やかに発色する。多くは青色×白で絵付けされるが、黄色・黒・緑・橙色・モーブ色も使用されている。

●南部 Oaxaca
バロ・ネグロ
直訳すると黒い陶器を意味するバロ・ネグロ。土の配合や窯で燻して焼くことで独特の黒色となる。かつてはMatte Metálicoと呼ばれるマットなメタリックグレーの陶器だったが、技術が進歩し光沢や艶があるものが作れるようになってからは、この光沢ある黒が好まれ現代の主流となった。焼き温度が低いため実用には向いておらず主に観賞用。それゆえ繊細な技術や艶のある黒の表現など今もなお進化し続けており、世界的にもコレクターが多い。

美しい黒色が魅力のバロ・ネグロは、高彩度でカラフルな色合いのイメージが強いメキシコの民芸品の中において、新鮮な驚きを与えてくれます。

南部という地域の括りで見てみると、陶器の産業はあまり発達しなかったそうです。ただ、メキシコの中でも先住民が多く住んでいる南部のオアハカ州は、様々な民芸品を求め、わざわざ訪れる人が多いくらい人気のエリアです。陶芸だけでなく、彩色木彫りのウッドカービング、羊毛から作られた毛織物のラグ、カラフルで伝統的な模様の刺繍、かごなど編み組みの民芸品はとくに有名で、織物博物館(オアハカ・テキスタイル・ミュージアム)もあるほど織物が発達した地域です。

各地域でその土地の特性や歴史的背景を重ね、時代によってアップデートされてきた手仕事。それらを一つ一つ見てみると重層的であり、またメキシコ全土で見ると多様性を感じます。

多彩・コントラスト・共存

メキシコカラーを纏った民芸品を見る度に心動かされる理由は、古来より培われたメキシコの色に対する思いや風土、代々引き継がれる伝統技術がぎっしり詰まっているからだと改めて思いました。

友人とのやりとりの中で、「メキシコは気候、民族、料理、習慣、また貧富や格差などの一つ一つの要素にコントラストがあるから、地味にしてられないよ!」という一言が私には印象的でした。きっとその真意は、メキシコという国は、たとえ補色関係のような色同士であったとしても多くの色を共存させる美しいメキシコカラーの布のように、互いを生かし合うことで多彩な魅力を放っているということなのだと思いました。

世界を見渡すと、自分の知らないことや異なる感性に惹かれることがたくさんあります。

今回はメキシコカラーについて友人の視点を通しながら自分ではたどり着けないような魅力を知ることができました。いつかまた自らの足でメキシコの地を訪れColores Vivosな世界を一身に浴び、感性を刺激できる日々が来ることが待ち遠しいです。End