鮮やかな色で「死者」の辿る道を照らす
メキシコカラーの魅力 -前編-

▲陽気な骸骨がディスプレイされたカラフルなショーウインドウ メキシコシティ

街路樹がちらほらと色づき始める10月。街中ではオレンジ、黒、紫といったお馴染みのハロウィンカラーの商品やディスプレイを目にすることが多くなってきました。ハロウィンと同じ頃、ラテンアメリカ諸国で行われる祝祭「死者の日(Day of the Dead)」をご存じでしょうか。

近年、アニメ映画化され話題にもなったこの伝統文化は、とりわけメキシコにおいて最も重要な風習の一つです。筆者も数年前にメキシコで死者の日の独特な雰囲気を体感し、メキシコという国とメキシコカラーの魅力に引き込まれました。

死者の日には人々が骸骨メイクや仮装パレードを行い、街は大きく賑わいます。筆者が訪れた際も、カラフルでユニークな巨大アレブリヘス(想像上の生物を表現したメキシコの民芸品)が立ち並んで街のメインストリートを彩っていました。カラフルで楽しい雰囲気にワクワクしたことを覚えています。

▲インストリートに並ぶ巨大なアレブリヘス メキシコシティ・レフォルマ大通り

この時期には、マリーゴールドの花がいたる所に飾られるのですが、その色鮮やかで明るいオレンジ色は死者の辿る道を照らすとされ、この時期のメキシコを象徴するカラーとなります。筆者はこのポジティブな死生観に大きな魅力と色のパワーを感じとりました。

メキシコでは2500~3000年前から、祖先の骸骨を身近に飾る習慣があり、死は“新しい命へ生まれ変わる一つの過程”と考えられていました。死者の日の起源はアステカ文明(1428-1521年)まで遡り、地域により様々な形で生まれ伝承されています。

死者の日は日本のお盆に似ていると例えられることもありますが、雰囲気は全く異なるものでした。メキシコでは家族や友人が集い、カラフルに祭壇を飾って音楽隊による陽気な演奏を聴きながら、明るい雰囲気で故人の魂とともに笑顔で楽しい時を過ごすのです。

▲日常的なもの、空想的なもの、神聖な儀式のためのもの。人々の暮らしや背景が見える色彩豊かな工芸品の数々。フォークアート美術館 “Museo de Arte Popular”

メキシコには美術館や博物館が非常に多いですが、その中の一つであるメキシコシティのフォークアート美術館 “Museo de Arte Popular”で出会った工芸品が素晴らしく、強く印象に残っています。このフォークアート美術館にはメキシコ各地のさまざまな時代の工芸品が収められており、その多くはメキシコ人の社会、環境、そして日常において重要な役割を果たすものや生活品です。

かつてスペインの植民地となったことで、他国の要素が入り混じり、それらの影響が美術・工芸など芸術領域の表現にも反映されているのです。

このようなメキシコカラーといわれる色の特徴、その魅力は何なのでしょう。

メキシコらしい色、それは高明度、高彩度といった色自体の特徴と同時に、カラフルかつ補色をうまく利用した色使いにあります。

陶器のような絵付け色や配色然り、織物やカゴのように織ったり編んだりするものも、よくよく見ると補色や類似色を上手く組み合わせています。明彩度を高めたり、抑えたりと微妙な色相を生み出しながら、多くの色を美しく共存させているのです。

一見、色の統一感はなさそうに見えますが、色がぶつかり合うことで色の魅力を殺しあうのではなく、色が色を活かし合い構築されているかのようなメキシコの布。真っ白なキャンバスに色の呼応を感じとりながら絵の具を置いていくようでもあります。調和、抑揚のある生き生きとした色彩感覚は、メキシコカラーの魅力のひとつではないでしょうか。

次回、後編ではメキシコ人の友人に話を聞いて感じたことや、メキシコの色彩の意味や地域における色彩表現の特徴などをお伝えします。End