「Automotive Innovation Forum Japan 2015」レポート【後編】

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10月中旬に虎ノ門ヒルズで開催された、オートデスクの「Automotive Innovation Forum Japan 2015」。基調講演と特別講演が行われた午前に続き、午後のセッションは4つのトラック(分科会)が開催された。トラックの分類は「デザイン」「デジタルマーケティング」「軽量化」「生産技術」の4つ。それぞれオートデスクのエキスパートによる講演や、ユーザーの事例紹介が行われた。

デザインスタジオの未来予想図とは?

デザイントラックでは、オートデスク・シニアプロダクトラインマネージャーのマイケル・ヴィチョレック氏が「Design Studio of the Future(デザインスタジオの未来)」という題で講演。オートデスクの考える未来のデザイン開発環境のイメージを紹介するもので、基調講演で示された方向性を詳細に語る内容だ。

▲マイケル・ウィチョレック氏

デジタルデータとフィジカルモデルを連携させ、利用するというデザインスタジオの未来予想図と、その実現に向けたオートデスクの取り組みが紹介された。

ヴィチョレック氏はまず、ドイツ車のフロントエンドのデザインを紹介。ヘッドライトの意匠でもブランドを表現し、認知させることに成功している。これは機能部品でも柔軟なデザインをできるようになったことが、ブランド価値を高めることに貢献している一例だという。現在起きている自動車開発環境の変化を、こうした製品の差別化やブランド価値を向上させる手段にどう結びつけるかが重要というわけだ。

▲ドイツのプレミアムブランドは、機能部品のヘッドライトでもブランドを表現。上からアウディ、メルセデス・ベンツ、BMW。

そして、このようなブランド価値を高めるデザインを効率良く実現するためには、新しいデザインスタジオのコンセプトが必要なのだと説く。具体的なビジョンとして最初に紹介したのが、コンセプトメイキングやアイデアスケッチを描くといった、デザイン開発の初期段階における効率化だ。「初期段階では、いろいろなアイデアやコンセプトが考え出されます。新しいものを生み出すために、多くの時間とリソースを使っています」とヴィチョレック氏。そしてこの初期段階の効率化をもたらすために、実に興味深いアイデアが示された。

現在オートデスクでは「Generative and Emotion led Design」というものにフォーカスしているという。これはデザイナーやエンジニアの発想を元に、要件や要求スペックに合わせたデザインを自動生成(ジェネレート)するという機能。生成されたデータはおおまかな解析やシミュレーションも可能で、素早いアイデア展開や開発期間の短縮に貢献するというものだ。

将来は、このテクノロジーが意匠面のデザインにも応用できるのではないかと開発を進めているという。例えば、スタイリングが初期アイデア段階でも空力シミュレーションを行うことができ、早い段階でデザイナーが思い描いたアイデアの実現可能性を予測できるようになるわけだ。

▲デザイン開発の初期段階でも、簡易的な空力シミュレーションが可能になれば、その後の工程がスムーズになる。

実際にこの機能は自動車メーカーから多くの要望があり、精力的な研究開発を進めているという。「CFDをはじめとしたシミュレーションをデザイン構想段階に取り入れることで、よりプロセスを柔軟なものにし、かつ時間を短縮することができるのではないでしょうか」とヴィチョレック氏。

▲市場投入までの時間を短縮できるということは、従来のタイムスパンを確保すれば、これまで以上にデザインを熟成させることが可能ということでもある。

またクラウド環境が整うと、生産や販売といった場面でも効率化が図れることに言及。デザイン開発で作成された3Dデータから、ただ単にアニメーション等をつくるというのではなく、「VRED(ヴイレッド)」を用いて営業やマーケティングなど、あらゆる部署とコミュニケーションできるパイプラインを作ることが重要だと説いた。

▲VREDの活用イメージ。開発段階に作成したデータが、そのままエンドユーザーの触れる情報にも利用できる。

VREDはレンダリングソフトではなく「ヴィジュアライゼーション・プラットフォーム」と位置づけ、開発したという。作成されたクラスAサーフェスを、そのままレビュー用にも使えるといった活用方法も紹介。デザイン開発以外の現場でもそのまま活用できることが、デザイン確定後のプロセスの効率化、省力化に貢献するというわけだ。

このほか、「Aliasというブランドはどうなってゆくのか」という方向性を紹介。ポリゴンとNURBSのいいとこ取りをした「Tスプライン」や、短時間でモデリングデータが作成でき、変更・修正も容易に行える「スピードフォーム」などを紹介しつつ「ポリゴンとNURBSを行ったり来たりでき、あるいは同じ環境で使えるハイブリッド・モデリングに力を入れていきたい」と展望を語った。

▲簡易的なモデリングデータを容易に変形させられることで、コンセプトメイキングやデザイン案の検証を素早く行える。

さらに「オープンAPI(Application Programming Interface)に力を入れたい」とヴィチョレック氏。クローズドな環境ではなく、サードパーティのデータもAliasで展開できるようにすることで、デザインプロセスを改善する可能性を追求するという。

▲1つのプラットフォームがデザイン開発のあらゆる領域をカバーすれば、すべてのワークフローをシームレスに連続させることができる。

ヴィチョレック氏は最後に、ブランドを確立できるデザインを効率的に実現するのは、ツールの能力だけではないことに触れた。「重要なのは、一歩下がって現状を巨視的に捉え、プロセスの課題はなにかを見つけ出し、どの方向を目指すべきかという航路を定義することではないでしょうか」とのことだ。

特別講義で桜井淑敏氏の語った「ディレクションがいちばん大事」という言葉と一致しているのは、おそらくこれが製造業のビジネスの本質ということであり、決して偶然ではないのだろう。

▲Aliasの将来イメージ

なおすべてのトラックが終了した後の懇親会にも、多くの聴衆が参加。終了時刻まで活発な意見交換が続けられた。オートデスクではAliasを開発現場だけでなく、あらゆる局面に展開するプラットフォームとして位置づけようとしている。今後はこうしたイベントの参加者の顔ぶれも、少しずつ変わってゆくことになるのかもしれない。(文・写真/古庄速人)

▲懇親会はオートデスク代表取締役社長のル・グレスパンの乾杯でスタート

▲懇親会はフォーラム参加者で大賑わいを見せた