ヴェネチアの水資源の危機を伝える
Diller Scofidio + Renfroが手がけた「Canal Café」

© Diller Scofidio + Renfro

イタリア・ヴェネチアで2025年11月23日(日)まで開催中の「第19回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展」。総合ディレクター カルロ・ラッティによるディレクションのもと、「Intelligens. Natural. Artificial. Collective.」をテーマに多彩な建築作品が展示されている。

企画展示部門で最高賞となる金獅子賞を獲得したのが、アメリカの建築設計事務所 Diller Scofidio + Renfro(ディラー・スコフィディオ+レンフロ)が手がけた「Canal Café」だ。

水の都・ヴェネチアにとって、運河やラグーン(潟)は街に豊かな歴史と美しさをもたらしてきた貴重な資源である。しかし、近年は水質の汚染や洪水が深刻化し、さらにはオーバーツーリズムや気候変動により水環境は危機に瀕している。

こうした課題に対して、同事務所は、アメリカに拠点を置く水エンジニアリング会社 Natural Systems Utilitiesおよびイタリアの環境エンジニアリング・水管理会社 SODAIらと共同で、運河の水を飲料水として利用するプロジェクトに取り組んだ。

「Canal Café」はラボを併設したカフェで、展示会場のアルセナーレにあるラグーンから水を汲み入れ、濾過を経て、ヴェネチアならではの心地よい香りと風味をもつエスプレッソを提供する試みである。

© Diller Scofidio + Renfro

水はラグーンから透明な管を介して引き込み、バイオ濾過システムでヘドロや毒素を除去する。さらに、ふたつの経路に分けられ、一方は「ミクロ湿地」と呼ばれる天然の膜分離装置を通過。そこには耐塩性をもつ塩生植物が配置されており、濾過しつつも水に含まれるミネラル分をキープする。もう一方では、人工濾過、逆浸透膜、紫外線殺菌といった処理を経て、蒸留水が生成される。これらの水をブレンドし、蒸気処理を加えることでエスプレッソを抽出。また、浄化された未使用の水は、隣接する景観インスタレーションに供給される。

© Diller Scofidio + Renfro

コーヒーを淹れて味わうことは、日常のなにげない行為である。しかし、同カフェでの一杯は、汚水が濾過されるプロセスを通じて、嗜好の向こう側にある環境問題を私たちに伝えている。End