建築家バルクリシュナ・ドーシ遺作 
ヴィトラキャンパスに新たな瞑想空間「ドーシ・リトリート」が公開

スイス・バーゼル近郊のヴィトラキャンパス(Vitra Campus)に、プリツカー賞を受賞したインドの建築家バルクリシュナ・ドーシ(Balkrishna Doshi)による「ドーシ・リトリート(Doshi Retreat)」が完成し、10月末より一般公開された。2023年に逝去したドーシの構想を、孫娘のクシュヌ・パンタキ・フーフとその夫ゾンケ・フーフが引き継ぎ実現させた。インド国外で完成した唯一の作品であり、ドーシの遺作となった。音を通じた瞑想空間として設計された。

来訪者は、銅鑼とフルートの音色が響く中、曲線を描く通路を壁沿いに進む。この形状は、ドーシが夢の中で見た「2匹のコブラが絡み合う姿」に着想を得たものだ。通路の地面には凹型の窪みがあり、そこから音が拡散される。終点の瞑想室には、インドで手打ちされた真鍮製のマンダラが天井に配され、屈折した光を空間に投げかける。


建物の主要構造には、再生可能エネルギーのみで製造される低炭素鋼材XCarb®スチールを採用。化学的な防護処理を施さず、時間の経過とともに自然な錆をまとう設計だ。

設計コンセプトは、サンスクリット語で「巻きついた」または「螺旋状」を意味するクンダリーニに根ざす。これは、脊椎の基部に眠る潜在的なエネルギーを象徴し、ヨガの伝統において精神的覚醒の源とされるものだ。ドーシは、この覚醒の鍵となる「音」を建築に組み込んだ。クシュヌ・パンタキ・フーフは、「身体に共鳴する音が、自己と構造の境界を溶かす」と語る。

現在、ヴィトラキャンパスギャラリーで展示され、ガイド付きツアーで見学できる。End