田根 剛の「Tane Garden House」、ヴィトラ キャンパスに完成。

2023年6月に開催された「アートバーゼル」期間中、スイスの家具メーカーヴィトラが、「Tane Garden House(ガーデン ハウス)」をヴィトラ キャンパスに発表した。

Photo:Julien Lanoo ©ATTA and Vitra

同建築は、フランス・パリを拠点とする建築家の田根 剛(Atelier Tsuyoshi Tane Architects)が設計を手がけた。ヴィトラ キャンパスは、バーゼル近郊にあるドイツの町ヴァイル・アム・ラインにあり、広大な敷地にフランク・ゲーリーやザハ・ハディドなど世界的に著名な建築家による建物が集められている。「Tane Garden House」は、篠原一男「から傘の家」、安藤忠雄「カンファレンス パビリオン」、SANAA「ファクトリー ビルディング」に続き、日本人建築家による4番目の建物となる。

Photo:Julien Lanoo ©ATTA and Vitra

プロジェクトの構想は、3年程前に遡る。2020年頃にヴィトラの名誉会長ロルフ・フェルバウムが「とても、とても、とても小さなプロジェクトに興味はありますか?」と田根に問いかけ、ともにヴァイル・アム・ラインを訪れたことから始まる。それは、20年に完成したヴィトラキャンパス内にある「アウドルフ ガーデン」の庭師の休憩小屋としてのガーデンハウスの設計だった。アウドルフ ガーデンの自然を再考し、持続可能性を象徴することをさらに推し進める目的があった。

田根とロルフ・フェルバウムの数限りないディスカッションからガーデンハウスは生まれた。Photo:Dejan Jovanovic ©ATTA and Vitra

田根はそこにプロダクト的なアプローチで設計しながら、工業製品を排除するという解決方法を探った。現代の建築業界がよく使う「地下資源」に頼るのではなく。「オーバーグラウンド(地上にある)」の有機素材を使い、クラフトマンシップで組み立てるという方法だ。その結果、できうる限り現地周辺から素材を集め、地元の職人の手によりガーデンハウスは完成した。

真鍮の口から丸太の手洗い場に水が流れる。ここには蜜蜂や、鳥も水を飲みにやってくる。Photo:Julien Lanoo ©ATTA and Vitra

15㎡ほどの面積というコンパクトな建物は、主としてキャンパス内の養蜂箱を管理するヴィトラ社員やガーデンハウスに隣接する家庭菜園の管理者が使用する。アウドルフ ガーデンを整える園芸道具を保管するほか、ガーデンが一望できる誰もが上がれる展望台の機能も兼ねている。

階段の手すりは地元のロープ職人の手によって組まれた。茅葺の壁からは新建材にない柔らかな香が漂う。Photo:Julien Lanoo ©ATTA and Vitra

建物内には小さなコーヒーキッチンが設けられており、8名ほどであればワークショップの開催や宿泊も可能。併設された展望台からは、移築された「から傘の家」など、ヴィトラキャンパスの景観を360度眺めることができる。

窓の外にはバックミンスター・フラーの「ドーム」が見える。Photo:Julien Lanoo ©ATTA and Vitra

2023年秋には、ヴァイル・アム・ラインのヴィトラデザインミュージアムギャラリーにて、田根の建築とガーデンハウスのプロジェクトの製作過程を紐解く特別展が開催される。

「すべての場所には、その土地に深く刻まれた記憶が歴史の中に埋もれています。そして、その記憶は決して過去のものではなく、建築を生み出す原動力となるのです。時の流れも耐え、世代から世代へと受け継がれていくものこそが、真の建築でありデザインなのではないでしょうか」と田根は語っている。End

Photo:Julien Lanoo ©ATTA and Vitra