東レ、「Ultrasuede® 25-26 Automotive Collection」
琵琶湖を着想源とした2色「波翳」「東雲」を発表

「Ultrasuede® 25-26 Automotive Collection」展示会場内観。Photos by Wataru Sato

素材メーカーの東レは、同社を代表するブランド「Ultrasuede®(ウルトラスエード)」の車両向けコレクション「Ultrasuede® 25-26 Automotive Collection」を2025年10月に東京・代官山のDAIKANYAMA T-SITE GARDEN GALLERYで発表した。

今回のテーマは「ORIGIN」。東レの技術的なルーツとも密接に関わる「琵琶湖」からインスピレーションを得ており、湖面の光の深みを表現した「波翳(はえい)」と、夜明け前の空の柔らかな色を捉えた「東雲(しののめ)」の2色を披露した。

「ORIGIN」で展開されたウルトラスエードのバリエーションの一部。

「波翳」は、水面に映る光の揺らぎを重ねた多層的なブルーが特徴で、力強さと静けさを併せ持つトーンが車内に落ち着きをもたらす。一方、「東雲」は、朝の光が湖に反射する瞬間を写し取った淡い色調で、空間に広がりと透明感を与える。2色それぞれが異なる魅力を持ちながら、車内という閉じられた空間に自然の色彩を取り込む提案として、インテリアデザインの可能性を広げる内容となった。

また、今年のテーマ設定について同社は、「素材のルーツやストーリーに焦点を当てました。素材の産地や歴史、商品が生まれる背景をお客様に知っていただくことで、ウルトラスエードへの愛着や共感を育むきっかけにしたい」と説明する。こうした取り組みは、乗車時の満足感やカスタマー自身が「確かな選択をした」という実感を高めるものとして、今回の展示でもそのプロセスが丁寧に紹介された。

会場では、コレクションに至るリサーチプロセスも見ることができた。同社のデザイナーが自ら撮影した琵琶湖の写真は、刻々と変化する光や色の表情をありのまま伝え、インスピレーションの源となった風景を来場者に共有するものだった。また、フィールドワークで採取した流木や素材サンプルも展示され、自然の質感やリズムをどのようにデザインへ昇華していったかが可視化されていた。

波翳(手前)と東雲に染めたウルトラスエードを張った什器。琵琶湖で採取した流木と、ウルトラスエードの原料となる植物由来ペレットが展示されていた。※流木は、市の許可を得て採取したもの。

東レは滋賀県において、全長900kmにも及ぶ極細の糸を1gに満たない細さで紡ぐ技術を確立し、柔らかな手触りと高い耐久性を兼ね備えたUltrasuede®の製造を続けてきた。こうした技術の蓄積は「素材そのものの美しさを追求する姿勢」に直結しているという。

展示会場の空間クリエイティブは、博展が担当。琵琶湖の波を連想させる影の動きを、ウルトラスエードをスリットし連ねたインスタレーションで表現した。Photo by Toray Industries, Inc. Ultrasuede Dept.

自然と同社の技術が共鳴して生まれた「波翳」と「東雲」は、琵琶湖の水面のように静かで深い時間を、移動の空間にそっと宿してくれるだろう。End