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7時間前
2025年11月15日(土)、HOMME PLISSÉ ISSEY MIYAKE(オム プリッセ イッセイ ミヤケ)が東京・六本木の東京ミッドタウンに新店舗をオープンした。旗艦店や従来の店舗から大きくイメージを変えた空間は、やわらかな曲線と余白によって、ひとびとを静かにいざなう。空間デザインを手がけたのは日本デザインセンター 三澤デザイン研究室。心地よいミニマルさを追求した店舗デザインについて、三澤 遥と、オム プリッセ イッセイ ミヤケのデザインチームに聞いた。

「HOMME PLISSÉ ISSEY MIYAKE / ROPPONGI」内観。これまでのオム プリッセから大きくイメージを変え、白を基調にした空間には絶妙な陰影が立体感を与えている。日本デザインセンター 三澤デザイン研究室が初めて手がけた店舗デザインだ。 Photos by Kohei Yamamoto
――イッセイ ミヤケと三澤デザイン研究室(以下、三澤研)はこれまで、ISSEY MIYAKE GINZA / 445で2023年に開催された特別展示「IKKO TANAKA ISSEY MIYAKE No.6 Special Installation[The Plant Series]/ [The Pyramid Series]」の会場構成やHOMME PLISSÉ ISSEY MIYAKE 2025/26AWでのロナン・ブルレックとのコラボレーションによるシリーズ「RB_DRAWING SCARF, RB_DRAWING BEANIE」におけるパッケージデザインと映像制作などで協業しています。店舗を手がけるのは初めてだったという三澤研にデザインを依頼したのはなぜでしょうか。
オム プリッセ イッセイ ミヤケ デザインチーム(以下、デザインチーム)
これまで何度も一緒に仕事をしてきて、信頼している三澤さんとお店をつくってみたいと思うようになりました。一般的に、店舗設計は建築家や空間デザイナーに頼むものですが、イッセイ ミヤケでは、建築に限らずさまざまなデザイン分野の方々に店舗づくりを依頼してきました。異なる視点が持ち込まれることで、他店とは違う新しい提案が生まれています。
今回の店舗は商業施設の中にあるという点で、オム プリッセにとってもこれまでとは少し違う形態です。だからこそ今までにない提案を、新しい方と一緒に取り組んでみたいと考えていました。三澤さんとならどういう空間をつくれるのか。服のブランドだからこうあるべきだといった先入観を持たずにデザインしてくれるのではないか――という期待がありました。われわれは服づくりをするブランドでありながらも、いろいろな手法で世界観を表現してきましたから、あまり固定観念にとらわれないほうがよかったのです。
――三澤さんが提案したコンセプトや空間のイメージを教えてください。
三澤 遥(以下、三澤)
まず、オム プリッセがどのように誕生してきたか、といったブランドの背景をお聞きしました。そのうえで、店内でゆったり過ごせる空間にしたいという考えを共有していただいたので、自然に足を踏み入れ、くつろいでもらえる「公園」のような場をイメージしました。
オム プリッセの服はミニマルで、空いているスリットや穴から好きなように体や腕を通して着られるようなアイテムもあります。着る人自身の発想が入り込む「余白」が、服そのものに備わっているんです。だからこそ、服というプロダクトがメインになる空間自体にも機能を持たせ過ぎず、「余白」があるといいのではないかと考えました。

三澤 遥/武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科卒業後、デザインオフィスnendoを経て、2009年より日本デザインセンター原デザイン研究所に所属。2014年より三澤デザイン研究室として活動開始。ものごとの奥に潜む原理を観察し、そこから引き出した未知の可能性を視覚化する試みを、実験的なアプローチによって続けている。第25回亀倉雄策賞受賞。
デザインチーム
そうでしたね。場所が六本木なので、青山にある旗艦店よりは落ち着いているでしょうし、仕事帰りなどでも気軽に立ち寄れるような場にしたいということをお伝えしました。お客さんと店のスタッフがより丁寧にコミュニケーションをとれることを意識しつつ、すぐそばには公園があって自然も近い環境なので、ゆったり買い物ができる空間を思い描いていました。
――オム プリッセのこれまでの店舗は、直線で構築された四角い空間に黒やグレーを基調としたハンガーラックが並んでいますが、ここでは大きくイメージが変わっています。
三澤
まず、スペースに奥行きがそれほどなかったので、そこにどうやって空間的な「余白」を生み出すか、模型をつくりながら構想しました。模型は概念的なもので、例えば粘土を使って隆起させてみたり、壁をいろいろな素材で立ててみたり。立体をとらえながら最終的には、空間の中の壁をカーブさせることで広がりを出しつつ、空間が過度に主張しないよう、あえて“存在感”を和らげることを試みました。

ハンガーラックになっている大きくカーブした壁面が、オム プリッセの衣服のもつ多様な色彩をいっそう豊かに見せる効果を生んでいる。空間全体、そして棚什器や大きなソファにも、使い方を限定しない“余白”をもたせることはデザインコンセプトのひとつ。
オム プリッセのプリーツ生地をものすごく近くで見つめると、曲線と曲線をつなぎ合わせながらプリーツができているのがわかります。直線的なパキッとした線はなくて、ひとつの色の中にさまざまな陰影を感じられるという視覚的な要素も、大きくカーブした壁面のヒントになっています。最初はグレーや黒っぽい空間もシミュレーションしていたのですが、やっぱり陰影がいちばん効果的に出るのは白かな、と。
そして空間全体の中に服の色の階層ができたり、同じ白でも素材によって少しずつトーンの違う壁や床によって、服の生地の細かな質感が際立ったりする。そんなイメージが徐々に固まっていきました。角張ったイメージではなく、生地がもつ柔らかいイメージが印象的なので、「優しい」というより「柔らかい」、「丸い」よりも「まあるい」といった雰囲気を大切にしています。
デザインチーム
オム プリッセのほかの店舗の内装は直線的な設計が多いのですが、この店舗は壁が緩やかにカーブしているところなど、われわれにとって新鮮な要素が凝縮されています。曲線に沿って服を掛けることができるといった新しさもあり、空間としての完成度が高いと思いました。三澤さんがおっしゃるように、削ぎ落とすことで現れた余白によって、オム プリッセのブランドを的確に表現する店舗になったと感じています。

壁と床が接する部分も一般的な方法で処理せず、あえて自然なまま。「つくり込みすぎずに何割かは完成していないような“余白”を残しました。ここは、主役である服や小物の配置ひとつで、ガラリと変化する舞台装置のような空間です。今後、どんなふうにこの場を創意で活用してもらえるのか、とても楽しみです」(三澤)。
――ハンガーラックになる壁面が大きな白い曲面になっていることで、服の色展開がきれいに浮かび上がっていますね。
三澤
これまでの展示会やお店で拝見していて、オム プリッセはシーズンによって色の方向性がガラッと変わり、その美しさが印象的でした。色を大切にしているプロダクトなので、その魅力をいちばんに感じてもらいたいし、訪れる人にはその変化を楽しんでほしいと思っています。例えるならば、広場のように開かれた場で、季節に合わせてさまざまな植物が咲いたり、違う生き物がやって来るような――そんな印象を呼び起こすかのように、空間の中で服の配色が主役になる関係性をつくれたのではないかと感じています。
――空間の中央に置かれた大きなソファも印象的です。
デザインチーム
2m以上もある大きなソファは三澤さんのアイデアで、最初に模型で提案してもらったときからとても面白いと感じました。ゆったりと座って服を眺めているだけでも、店舗のスタッフと会話が生まれそうだし、将来的にはインスタレーション的な使い方もできるかもしれません。

3.3m×2.5mの大きなソファは特別につくられたもの。いちどに大勢が座れるだけでなく、服をディスプレイするような活用も見込んだデザインだ。
三澤
店内の半円状の空間には不思議な造形が配置されています。ただ、役割が分かりやすく示されてはいないんです。役割をひとつに決めてしまうと、そのためだけに存在するものになってしまう。でも役割を決めずに何にでもなり得るものを置けば、スタッフのみなさんにも、この空間を訪れた人にも自由に使うことができる「余白」が生まれると考えました。それが大きな白い楕円形のソファと、薄い鉄板を重量感のある柱で押さえたような棚什器です。

ソファの上部が迫り出している形、そして側面のステッチをできるだけ下方へずらしたことで、大きく丸みのあるボリューム感を強調している。フロアへ落ちる陰影によって、まるで白い大きな物体が浮遊しているような錯覚を呼び起こす。
ソファは、3.3m×2.5mという大きさで、何人もが一度に座ってくつろぐことはもちろん、服を平らにディスプレイすることもできます。フォルムは下部が少しすぼまるようにデザインし、全体にやわらかな丸みとボリュームが感じられるよう仕上げてもらいました。
このソファはカッシーナ・イクスシーのコントラクトチームがオリジナルで設計したものです。通常は上面から見える位置に入れるステッチを、あえて下側へずらして見えにくくすることで、縫い目の存在感を消し、ソファの立体感や白いフォルムがすっと浮かび上がるような陰影が生まれています。人工レザー製のカバリング式なのですが、ファスナーもぎりぎり見えない位置についているので、全体が大きく白い浮遊感のあるソファになりました。
――空間全体が白やライトグレーのトーンでまとめられていますが、素材や仕上げで工夫したのはどういったところでしょうか。
デザインチーム
空間全体がシンプルなので実際に使用する建材などの素材感を大事にしています。平滑なものよりもテクスチャがあるもの、曲線のつなぎ目があまり目立たない加工など、三澤さん、チームのみなさんとひとつひとつ選びました。

壁や床はすべて職人の手作業による左官仕上げ。わずかに全体が起毛している表面は、場所によって、材質に含まれる繊維が服に付着しないようコーティングされるなど、表面加工を使い分けることで、白い空間に穏やかな陰影を与えている。
三澤
デザインチームのみなさんにとって質感はとても大切なものだと感じていたので、何度も素材見本を送らせていただきました。手づくりで仕上げてもらったソファだけでなく、石を磨く職人、左官職人など、白のトーンを構成するためにさまざまな職人の方が参加してくださっています。左官仕上げはすべて、原田左官さんによるもので、ポリーブルという新しい配合の左官材を採用しました。

重量感のある柱を薄いステンレスの板でサンドイッチするように組み合わせた棚什器。「プリーツ生地の特性を生かしたディスプレイなどを自由に工夫できる“余白”をもつ空間です」と三澤。
ハンガーラックの壁面は、近づいて見ると表面が上質な和紙のように起毛していて温もりが感じられますが、服が触れる部分には繊維が付かないようコーティングを施しています。床には人が歩くために適した左官仕上げをしてもらいました。白にも少しずつ奥行きや差があることで質感の違いが表れ、素材によって生まれる微細な陰影が空間に深みを加えてくれています。
カウンターと棚什器で使っているグレーの柱部分も掻き落としによる左官仕上げでつくりました。個人的には、なんとなく、公園にある水飲み場のような雰囲気にも近いと感じています。
――オム プリッセの店舗にはマネキンがなく、ここでもディスプレイは入り口横にあるウィンドウだけですね。
デザインチーム
いまは写真を飾ってありますが、オム プリッセの服は基本は平らな状態になるので、実際の服をディスプレイすることや、映像やオブジェなどをインスタレーションのように見せることもできるかもしれません。通路側からそれを目にした人たちが、引き込まれるように店へ入ってくれる。そんな光景が生まれれば嬉しいですね。

入り口には扉を設けず、誰でも気軽に立ち寄れる雰囲気を大切にしている。マネキンは置かず、隣接店との境界にある大きなディスプレイには今後、服や実際のプリーツ生地を活用したインスタレーションが展開される。
三澤
オム プリッセのみなさんは、単純にシーズンごとに服をディスプレイするだけではないと思うんです。このお店のオープン前にも、デザインチームのみなさんが参加して、次々と服を入れ替えながら、ああでもない、こうでもないと、試行錯誤している姿を見ました。それはとてもクリエイティブな時間だと感じたんです。だからこそ、この空間も、それが自由にできる余白を残しておきたいと考えました。こう使って欲しいと限定するような機能を空間にもたせたら窮屈じゃないですか。ディスプレイも含めて、デザインチームのみなさんに遊んでもらえるかどうか。お店ではあるけれど、創造性をもってプレゼンテーションするような余白があり、常に変わっていく空間であることを大切に考えました。
――最後に改めて、この店舗への印象や想いを教えてください。
三澤
服を選ぶ人が、この空間で起こる変化を敏感に感じ取れるような、あるいは楽しみながら感じ取りたくなるような変化を、起こしつづけられるような場になってほしいと思います。オム プリッセのスタッフやデザインチームのみなさんにとって、どのようにディスプレイするべきか、考え続けないといけないような場であるというのは、手がかかり、面倒なことかもしれません。そうした大変さはありつつも、余白の可能性を探りつつ、空間そのものを通じた新しい伝え方を試していける場所になればと願っています。

デザインチーム
この店は、新しい出会いがある場になってほしいですね。棚もソファも、どう使ってどうディスプレイすれば生きてくるか、まだ答えは見つかっていませんが、時間をかけて見つけ出していくものだと思っています。空間は、床面積としてはそれほど大きくはありませんが、中は広々として開けた印象になり、実際に入ると広く感じます。ちょうど来春のコレクションは色のバリエーションも多いので、鮮やかな印象をより感じていただけるのではないでしょうか。人に寄り添った優しさを感じる店舗を三澤研のみなさんと、一緒に形にできたことを嬉しく思っていますし、われわれ自身がこの空間のことも考えながら服づくりをしてみたいという前向きな気持ちにもつながっています。(文/高橋美礼)

HOMME PLISSÉ ISSEY MIYAKE / ROPPONGI
- アドレス
- 東京都港区赤坂9-7-3 東京ミッドタウン ガレリア 2F
- 詳細
- https://www.isseymiyake.com/blogs/news/18224












