4人それぞれが、日常にささやかな視点の変化を投げかける
デザインチームNomadicの試み

Nomadic(ノマディック)は、2023年に結成された笠松祥平、品川 及、福島拓真、前田怜右馬の4人によるデザインチームである。いずれもコクヨに在籍しながら、社外活動として自主制作した作品を展示・販売している。2025年にはDESIGNART TOKYOをはじめ、ataWでの企画展、THINK OF THINGSDESIGNTIDE TOKYO(Market含む)といったデザインイベントに積極的に参加し、自分たちの作品や考えを発信する機会を広げてきた。デジタルファブリケーションの発展によって、誰もが容易に作品を制作・販売できるようになった現在、彼らはどのような姿勢でものづくりに向き合っているのか聞いた。

「LIGHT-PAPER」笠松祥平(2023)。紙で照明をつくるプロセスを日記のように綴ったブックレットを制作。消費者に対して完成品(製品)の販売・購入といったやり取りだけでなく、そこに至るまでの実践の過程や知恵、工夫なども共有することを提案する。

コロナ禍をきっかけにチームを結成

Nomadicは、ものづくりに対する価値観の近しいメンバーが集まり誕生した。最初に福島が笠松に相談し、品川に声をかけ、活動をスタートさせた。いずれもコクヨに2020年前後に入社しており、結成の背景にはコロナ禍という社会的転換期の影響がある。これまで当たり前だった価値観が揺らぐなかで、各々がこれからのものづくりのあり方を模索していた。

「tilt」(2024)(左)と「Skin」(2023)福島拓真。円は斜めから見ると楕円になるという、必然的な形に着目した「tilt」」と、容器にラップをかけてレンジで温める行為から生まれた「Skin」。後者は何気ない生活に潜む行為に美しさを発見したプロジェクト。

時代の変化に柔軟に対応するもの

チームを結成すると、2023年のDESIGNART TOKYOを初の発表の場と定めて、「Things with dialogue」をテーマに置いた。各自が温めてきた構想や過去作のブラッシュアップを図り、コロナ禍のような大きな社会的変化が起きても、その変化に柔軟に応答し、生き延びる力をもったものづくりのあり方を模索するという彼らの考えの起点となる展示となった。

笠松は、紙で照明をつくるプロセスを記録したブックレット「LIGHT-PAPER」を制作。一連の記録は、既製品に頼り切らず、能動的に自ら手を動かして生活で使うものと向き合う姿勢そのものを提示する。福島は、円を傾けることで生まれる楕円形のオブジェクト「tilt」と、電子レンジ加熱時にラップが器に密着する現象から着想したガラス作品「Skin」を発表。日常に埋もれた「当たり前すぎて見過ごされていること」をすくい上げ、造形として可視化した。

そして、品川は大学の卒業制作を発展させたセラミック作品「Assemble」を展示。効率化された量産システムが消費を加速させる現代社会を背景に、人とものの関係性を再構築することをコンセプトに置いた。古くからある成形方法のひとつ、排泥鋳込みによって制作時間の痕跡をテクスチャーとして表出させ、量産とクラフトの中間にあるもののあり方を提示した。

「Chain Brogue」(2023)(左)と「Hollow」(2024)前田怜右馬。「Chain Brogue」は、時代性や地位、性別など、あらゆる区分をなくすボーダーレスな佇まいを表現。「Hollow」は、革靴の多様な技法を壺(容器)に展開することを試みた作品。

前田は、2023年のDESIGNART TOKYOで別会場に出展していた。社外活動として革靴職人のもとに通って磨いた技術をもとに、自作の革靴を発表。その完成度の高さに他の3人が注目し、Nomadicの新メンバーとして迎え入れた。

2024年のDESIGNART TOKYOでは4人で出展し、前年のテーマを発展させた「METHOD」を掲げた。「メソッド(制作手法)」を重視し、「一義的ではない」作品を目指して制作。この「一義的ではない」とは、用途や使用場所を定めず、解釈を使い手に委ねるという考え方である。

前田は言う。「用途が限定されたものは、使い手の思考の幅を狭め、人とものの距離を遠ざけてしまうことがあります。各々が自由に捉えて使いこなせる余白があるからこそ、ものとしての可能性が広がる。そして、僕らは量産を前提としながら、創造性と実用性が共存する作品を目指しています」。

「Assemble」(2022)(左)と「offset」(2024)品川 及。いずれも3Dプリンタで石膏型をつくり、その型に泥状の土を流し込む排泥鋳込みという製法を用いている。

デジタルファブリケーションを巧みに取り入れる

Nomadicの創作活動の特徴に、3Dプリンタなどのデジタルファブリケーションの活用がある。近年、デジタル技術の発展により、個人でも少量生産やブランドの立ち上げが可能になった状況について考えを聞いた。

品川は、セラミック作品の型を3Dプリンタで制作している。金型をつくることに比べてコストの削減と作業の効率化を実現しているが、自身は3Dプリンタを特別な存在とは捉えていないという。「カンナやノコギリと同じ、ものづくりの道具のひとつと考えています」と話す。

笠松は、従来の「大量生産かクラフトか」という二項対立ではない、新しい生産のあり方が登場していると指摘。「精度を必要とするものに対しては量産的な手段を、数を必要としないものには部分的に3Dプリンターを活用するなど、各々の利点を融合した作品制作が増えています。量産、クラフト、デジタル技術はどの手法にも優れている点があり、これからのものづくりでは、それらがより柔軟に、有機的に、目的に応じて選択されていくと考えています」。

その一方で、3Dプリンタを使って誰でも簡単にものをつくれるようになったことで、思考が浅く耐久性に欠け、すぐに廃棄されてしまうものが生まれる可能性もある。福島は、制作環境が開かれた時代になったからこそ、安易な制作に警鐘を鳴らす。「大量にものをつくり氾濫させることを僕らは望んでいません。本当に社会に必要なものかどうかを、常にメンバー全員で徹底的に議論することを大切にしています」。

前田はこう続ける。「メンバーに試作を見せると、『なぜそれをつくったのか』『どんな文脈で生まれたのか』『どこにポイントを置いているのか』と、アウトプットの背景まで徹底的に問われます。正直、少しストレスに感じることもあるのですが(笑)、とても重要なことだと思っています」。

「KACHI KACHI」前田怜右馬(2025)。コットンロープに漆を塗り重ね、一部を固めて形づくる。硬化した部分はカチカチに、未加工の部分はしなやかなまま、一本の線の中に剛性と柔軟性が共存している。オブジェクトとしても道具としても束縛されない、多様な余白をもった作品。

ふたつの世界を往復するなかで気づきを得る

前田はメンバーの中で唯一、作品制作において3Dプリンタなどのデジタル技術を使用していない。例えば、「KACHI KACHI」は、漆が古くから接着剤として使われてきたことに着目し、治具を自ら考え、その治具にロープを這わせることで形を生み出している。

「僕は普段、コクヨではインダストリアルデザインに携わり、Nomadicでの活動や革靴づくりでは手作業で制作しています。工業的なデザインの現場に身を置きながら手仕事の世界を見つめたり、あるいは、逆の視点に立つ。その行き来によって、さまざまな気づきが生まれるので、両方のものづくりに関わることに意義と必然性を感じています」と、前田は語る。

「Packing for the Method」Nomadic Studio(2025)。あらゆる形態に変容する、グリッドの切れ込みを入れたダンボール製パッケージを制作。

Nomadicが考えるデザインとは

これまで共通のコンセプトをもとに各メンバーが制作を行うCollective(コレクティブ)の活動をしてきたが、2025年には4人全員でひとつの作品を手がけるStudio(スタジオ)としての取り組みにも着手し、作品販売もスタートさせた。結成から約2年が経ち、チームとして目指す方向性や結束力が固まってきたことを、それぞれが実感しているという。そんな彼らにとってのデザインとは、ものづくりとは何か、それぞれに聞いた。

「デザインというのは、ひとりで孤立してつくるのではなく、他者と力を合わせて何かを成し遂げたり、計画を実行する『プロジェクト』だと考えています」(笠松)。

「文脈や背景の重要さもありながら、見た瞬間に心を動かされ、素直によいと思えるかどうかを何よりも大事にしたいと考えています」(品川)。

「『誰かのためにつくる』という発想で考えるのではなく、自分が良いと思うことをものに落とし込む。その結果、人の生活が豊かになることが理想です」(福島)。

「デザインやエンジニアリングの視点を取り入れながら、生活者の工夫や多様な使い方が入り込む余白をもたせ、日常に自然に溶け込みながら、作品が鑑賞物に終わらず実際の生活に実装されることが大事だと考えています」(前田)。

2025年10月より福井にあるataWでの企画展「Not building, but growing」。福井という土地の場所性に触れるなかで、Nomadicのメソッドを重視したものづくりは、より確固たるものへと深化した。

彼らは90年代生まれでデジタルネイティブと称されるが、実際は手作業の体験価値も知る、時代の狭間に立つ世代と言えるだろう。デジタルとアナログ、量産とクラフト、DIYと工業製品のどちらか一方を選ぶのではなく、複数の世界を行き来しながら、加速する現代社会のなかで見過ごされがちな価値をすくい上げ、「日常にささやかな視点の変化を生み出すきっかけ」を届けようとしている。

今後、メンバー間で素材やアイデアをシャッフルすることも試みたいという。笠松は、「予期せぬ化学反応が生まれ、新たな表現へと発展するのではないか」と期待する。「遊牧民」を意味するNomadicの名の通り、時代や環境の変化にしなやかに呼応しながら本質とは何かを探り続ける彼らの活動は、今後も私たちにさまざまな気づきをもたらしてくれるだろう。End

Nomadic(左上から時計回りに)前田怜右馬、笠松祥平、福島拓真、品川 及。

Nomadic/コクヨに勤めながら、自主活動を行うデザインチームとして2023年に結成。各々が作品をつくるCollectiveと全員でひとつのものをつくるStudioの2軸で活動を展開。個人の等身大の気づきや感動からくる創造性を重要視している。メンバーそれぞれが用いる手法はバラバラでも、価値観は共通している。 (@_nomadic_collective_)

笠松祥平(かさまつ・しょうへい)/1996年北海道生まれ。2019年京都市立芸術大学デザイン科プロダクト・デザイン専攻卒業後、f/p design 京都オフィスを経て、2020年にコクヨに入社。(@shohei_kasamatsu)

品川 及(しながわ・いたる)/1998年東京都生まれ。2022年多摩美術大学生産デザイン学科プロダクトデザイン専攻卒業後、コクヨに入社。(@itaru_shinagawa)

福島拓真(ふくしま・たくみ)/1998年神奈川県生まれ。2021年武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科インテリアデザイン専攻卒業。2021年コクヨに入社。(@_takumi_fukushima)

前田怜右馬(まえだ・りょうま)/ 1993年東京都生まれ。2017年東京藝術大学デザイン科卒業後、コクヨに入社。(@ryoma_maeda_)