半導体メーカーがつくるテロワールを生かしたワイン
MGVs(マグヴィス)ワイナリー


国内最多となる80以上のワイナリーがひしめく山梨県に、この春新たなワイナリーが誕生した。ワイナリーの名称は「MGVs(マグヴィス)」。山梨ワインの代表的な品種であり、日本固有品種でもある「甲州」(白)とマスカット・ベーリーA(赤)を使い、テロワール(土壌)の個性を生かして世界で勝負できるワインを目指すという。

近年、需要が高まっている日本ワイン。その発祥の地として知られる山梨県甲州市の川べりに面した閑静な通り沿いに、「MGVs(マグヴィス)ワイナリー」はある。同地で新たにワインづくりに乗り出した塩山製作所は、スマホなどに組み込む半導体のウェーハ加工メーカーとして知られる。事業の多角化を模索する過程で、これまで培った精緻な加工技術を生かしつつ地域の活性化にもつながる取り組みとしてワインづくりに着目した。

▲醸造施設やショップ、試飲スペースなどが設けられたワイナリーの内観および外観。試飲スペースからガラス越しに醸造の工程を見ることができる。

2016年から醸造をスタートし、立ち上げに合わせて白ワイン4種、ロゼワイン1種を仕込んだ。醸造や瓶詰めなどを行う真新しい施設は、半導体工場を改築したもの。外気中の不純物を取り除く空気清浄システムなど、半導体製造に用いてきた設備の半分以上を再利用してワインづくりに生かす。半導体の製造過程で使っていた窒素もワインの鮮度保持に活用するという徹底ぶりだ。

▲自社畑のぶどうの収穫は気温の低い早朝4時から行うなど、ぶどうにストレスをかけない徹底的な品質管理が行われている。ぶどうの栽培や醸造の責任者には国内トップクラスの専門家があたっている。

こだわりは、こうした品質管理や畑の個性を生かした醸造だけにとどまらない。ワイナリーの名称や施設の内装、ラベルのデザインといった一連のディレクションには、アートディレクター兼デザイナーとして活躍するMTDO(エムテド)の田子 學さんを起用。ブランド構築にも力を入れる。

アルファベットと3ケタの数字を組み合わせたワインのネーミングも田子さんの発案によるものだ。原料のぶどうや収穫地、仕込み方法、製造方法が一目でわかるよう意図されている。例えば「K131」なら、甲州種(K)を使い、勝沼地区(1)で栽培した、フリーランとプレスの混合という仕込み方法による(3)、ステンレス発酵(1)のワインといった情報がこの記号から読み取れる。「ぶどうの品種や収穫地の特徴だけでなく、原料の処理方法や発酵も関心を注いでもらい、ワインの個性として楽しんでもらえれば」と田子さんは言う。

▲MGVsのワインラベルは消費者への情報発信を重視し、「K(甲州種)1(勝沼地区)」などアルファベットと数字で、原料ブドウや収穫地、仕込み方法、製造方法が一目でわかるようになっている。

関係者向けに行われた見学会で、初仕込みとなったワイン2種(白とロゼ)を試飲した。味わいの第一印象は「クリーンで爽やか」。スッーっと喉を滑るような軽快感がこれからの季節にぴったりだ。フランスから輸入したブルゴーニュやボルドー樽で仕込まれたワインがリリースされる頃には、樽香の効いたより複雑な味わいのワインが楽しめることだろう。

当面ワインの販売はワイナリーショップや自社オンラインショップ、限られた首都圏の酒販店が中心で、価格は2,200〜5,000円台。ぶどうの栽培量も徐々に増やし、将来的には海外展開も視野に入れるという。「この土地でしかつくれない味わいで、記憶に残るワインを生み出したい」(松坂浩志塩山製作所社長)。丘陵に広がるぶどう畑に囲まれ土地から、またひとつ新たなワイナリーの挑戦が始まった。

▲酸に強いステンレス316を使用した発酵タンクはイタリアから取り寄せたもの。ぶどうの味を素直に引き出したワインに仕上げるために、こうしたハイスペックな設備選びにも余念がない。

MGVs(マグヴィス)ワイナリー
住所:甲州市勝沼町等々力601-17
Tel:0553-44-6030
営業時間:9:30~16:30(ショップ、試飲)
定休日:火曜日(ただし、9~10月は無休)、年末年始
URL:http://mgvs.jp