第8回サン・テティエンヌ国際デザイン・ビエンナーレより

国立兵器工場の跡地を利用したビエンナーレ会場入り口。

3月にフランス中部ロワール県のサン・テティエンヌ市で開催された国際デザイン・ビエンナーレ。The Sanit-Etienne Higher School of Art and Designが母体となっていることもあり、世界で進む学生たちの研究・取り組みを社会に紹介することに力を入れてきた。今年も世界6カ国の美術系高等教育機関によるプロジェクトがストーリー仕立てで展示され、地元市民を中心に学生のグループ、家族連れの姿が多く見られた。

新たな栄養源として体内で藻を培養する「Algaculture」

やがて訪れる食糧難の時代に向けて、多くの教育機関が進めているのが代替食品の研究開発だ。人工肉や昆虫食の開発に取り組む大学も多い中、食糧の供給という発想を逆転させ、人間自らが体に必要なエネルギーを生み出すというシナリオをつくり出したのが、英国RCA出身のマイケル・バートンだ。海藻類を身体に取り込んで共生関係を築くことができれば、人間の体は生きていくための栄養素を光合成で賄うことができるという筋書き。しかし、こうした取り組みには必要な栄養を吸収するという以上に“食べること”がもたらす悦楽や罪悪感を除外している気がして残念だ。

MITメディアラボ タンジブル・メディア・グループ「Facebook coffee table」

モノが過剰な時代、新たな家具のデザインの展示はさすがに少なく、普段使っている家具に先端技術を応用して暮らしを変える、そのための研究も見られた。その1つ、MITメディアラボの石井 裕教授率いるタンジブル・メディア・グループは、日常の振る舞いの中にデジタル技術を取り込むことで、その振る舞いに新たな体験を加えることができないかというシナリオをつくり、「Ambient Furniture(周囲の環境に依存する家具)」を提案した。

例えば、私たちは毎日、テーブルで会話を交わし、ソファでくつろぎ、ゴミ箱にゴミを投げ入れる。いずれにしても“何かをする”行為であれば、そこにヒネリや楽しさを加えて、より楽しくなるような新たな機能を足すことができないだろうか? その1つが「Facebook coffee table」。毎日の会話に彩りを与えるテーブルの提案だ。テーブルに埋め込まれた音声センサーが会話の内容を認識し、スマートフォンのタイムフィードから関連した写真を取り出してテーブルトップに映し出す。過去の体験をよりリアルに共有することができるだろう。「Pandora chair」は毎日くつろぐアームチェアにDJ機能を加えたジュークボックスの椅子。体が椅子に寄り掛かる深さによって、椅子に内蔵されたスピーカーから、その時の気分にぴったりのチューンを選曲して、流れてくる仕組みだ。

インタラクティブ・ウィンドウ「Windows to the World」

企業と大学との共同研究も多く展示されていた。トヨタモーターヨーロッパはデンマークのCopenhagen Institute of Interaction Designと共同で、車窓から見える風景が旅先の現地の言語で訳されて窓に表示されたり、タッチパネルのように窓の表面をピンチアウトして遠方を拡大したりできるインタラクティブなタッチスクリーンとしての窓「Windows to the World」のコンセプトを展示した。コンセプトではあるものの、クルマが人と移動中の外の世界とをつなぐ、まさに世界への窓としてのデジタルデバイスになるという意味で、車と人との新しい関係を生み出すかもしれない。コンセプトがプロトタイプになる日を待ちたい。

ビエンナーレ会場では、展示ごとのキュレーターが一般の方に向けたガイドツアーを行っており、コンセプトに依拠したデザインを分かりやすいものにしようとする試みも見られた。(文/長谷川香苗)