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松田行正 著『線の冒険 デザインの事件簿』

sennoboken

『線の冒険 デザインの事件簿』
 松田行正 著(角川学芸出版 2,940円)

ページをめくって、まず目に飛び込んできたのは「アメリカ爆撃地図」。太平洋戦争末期にアメリカ本土に向けて放たれた風船爆弾の軌跡を記したもの。

その他にも、東京の地下鉄がどれくらいの深さを走っているのかを図示した「地下鉄深度地図」に、ビートルズ「アビー・ロード」の横断歩道の現在のセンターラインの写真、日本の地図記号の変遷、中国文化大革命10年の権力抗争史のダイアグラム、アウシュビッツの虐殺現場写真。ウ゛ェルヌのノーチラス号の軌跡の海底深度図、エッフェル塔の骨組み線……。

文章を読む以前に、これらのダイアグラムやチャート、写真に見入ってしまいました。

本書は、古今東西多様な事象を行ったり来たりしつつ、それぞれを「線」というテーマで切っていく、と言っても、線はあくまで脇役で、主役は世の中の混沌と秩序の中を行き交う著者の視線。「規格化された線」「饒舌な線」「垂直の快感と恐怖」「前線と速度」などの章ごとに、人類の歴史・思想とデザインのコラボレーションを試みる。

そして「線」とは、時間の流れであり、モノの輪郭であり、どこにでもあるもので、途切れたと思ったものが実は繋がっていたりすることに気づいていく。

淡々とした語り口とつくり込まれたダイアグラムの数々に、知識欲と好奇心が駆り立てられ、視覚世界が揺さぶられます。

深夜ひとり、沈毅な気分で読んでいたい一冊(笑)。(K. I.)