第8回
「セイコーパワーデザインプロジェクト」、12月1日から開催

1969年に発売された「セイコークオーツアストロン」のオリジナルモデル。

▲1969年に発売された「セイコークオーツアストロン」のオリジナルモデル。

今年10月末に開かれた東京デザイナーズウィーク。期間中にAXISビルを訪れた人々からは、「あれ、今年はセイコーさんの展示はないの?」という声が数多く聞かれた。

例年、デザイナーズウィークの時期に、AXISビル4階のJIDAデザインミュージアムを会場に開催してきた「セイコーパワーデザインプロジェクト」。インハウスデザイナーがワークショップの成果を発表するという2002年にスタートしたプロジェクトである。こうした企業デザイン部主導のイベントが継続して行われる例は日本のデザイン界を見回しても決して多くなく、いかにデザインに関わる人々に深く浸透し、期待を寄せているかが、この声にもよく表れている。

今年の「パワーデザインプロジェクト」は、開催時期、開催場所の変更以上に、これまでとは趣向の異なるテーマに取り組んでいる。セイコーが1969年12月に発売した世界初の水晶式腕時計「クオーツアストロン」の40周年を40本の新たなデザインで祝おうという意図なのだ。

セイコーウオッチ商品企画本部チーフデザイナーの丸山哲朗氏(左)と、同デザイナーの松江幸子氏。

▲セイコーウオッチ商品企画本部チーフデザイナーの丸山哲朗氏(左)と、同デザイナーの松江幸子氏。

「クオーツアストロン」が登場した当時、機械式時計の精度は1日数十秒の誤差というのが当たり前だった。しかし、「クオーツアストロン」は1.5ボルトという小型電池で水晶振動子が規則正しく動き、それをICで電気信号に分割して針の回転運動に変えることで、1カ月に±5秒以内という高い精度を実現させたのである。

実は、こうした時間を正確にコントロールできる技術は、現在ディスプレイ表示される携帯電話やAV機器の時間表示にも大きく影響を与えているだけでなく、クオーツウオッチのために開発されたICが画像を処理する技術に応用され、デジタルカメラやコピー機、スキャナーなどの時間表示以外の用途にも活用されているのだ。

今回発表される40点の作品のなかから。

▲今回発表される40点の作品のなかから。

当時は、クオーツ時計が機械式時計を凌駕し注目を集めたわけだが、すっかりクオーツが身近になった今は、どちらかと言えば高級品となった機械式時計のほうに人々の関心は高いのかもしれない。それは、クオーツウオッチを日頃手がけているセイコーのデザイナーでも同じだったという。しかし、今回のプロジェクトを通じて、改めて仕組み、技術力、背景にある思い、産業界への波及効果などを学び、「認識を新たにしたと同時に、デザインをする際の自信にもつながった」と同社デザイナーの松江幸子氏は率直な思いを説明する。

発表される40作品は、着想も発展のさせ方もさまざまで、デザイナー各人がいかに自由な発想で取り組んだかが伝わってくるものばかりだ。それは、プロジェクトを指揮する同社チーフデザイナーの丸山哲朗氏の意図でもあったという。クオーツウオッチ開発に携わった人々に敬意を示す気持ちを表した胸章のかたちをした時計、アストロンというネーミングから宇宙、天体をイメージしたもの、当時のファッションや時代・社会性に着想を得たもの、素材や加工技術を前面に押し出したもの……。特に職人技と言える精緻な彫金や100分の6mmという印刷技術は、ルーペを持って覗き込みたくなる緻密さで、時計ならではのデザインと技術を感じさせる。

今回発表される40点の作品のなかから。

▲今回発表される40点の作品のなかから。

プロダクトデザイナーの深澤直人氏がディレクションした過去7回のパワーデザインプロジェクトからは、すでに16種類の時計が商品化されているという。今回もそのような展開を期待しつつ、会場で40本ひとつひとつをじっくり見てほしい。

セイコーパワーデザインプロジェクト「ASTRON 40」展

会期 2009年12月1日(火)〜6日(日)
   12:00〜19:00(初日21:00、最終日17:00まで)

会場 ギャラリー80
   東京都渋谷区神宮前4-12-10
   表参道ヒルズ西館1F W104

地図などの詳細は→ セイコーウオッチ パワーデザインプロジェクト