「フセイン・チャラヤン ファッションにはじまり、ファッションへ戻る旅」@MOTがスタートしました。

北キプロス・トルコ共和国出身で、英国を拠点に活動しているファッションデザイナー、フセイン・チャラヤン(1970年生まれ)の日本初となる展覧会が、木場の東京都現代美術館で始まっています。

チャラヤンの仕事にについては、本誌81号の特集「服に潜むクリエイション」でもその一端を紹介していますが、抽象的なテーマによるコンセプチャアルな服づくりは、ロンドンのセント・マーティンズの卒業制作作品がメディアの注目を集めた頃より、今日に至るまで変わることはありません。

「単なるスタイルとしての服飾デザインを考えていくとしたら、すぐに限界がきてしまうでしょう」と、チャラヤンはかつて本誌のインタビューにこう語っています。1つ1つの作品は、「テクノロジー」や「遺伝子」「移動」「アイデンティティ」といった、現代社会が直面する極めて今日的なテーマをはらみ、そうした一見バラバラな要素を構造化することで、壮大な物語へと仕立てられていきます。そうした表現志向が、アーティストとしての側面からも高い評価を獲得する理由なのでしょう。

今回の展覧会では、1994年から2009年までに発表された服のコレクションに加え、05年のヴェネチア・ビエンナーレにおけるトルコ館で発表された映像インスタレーションなど、約25点の作品で構成されています。作品点数そのもの(特に服の展示)は決して多いとはいえず、服を着たマネキンがただ並ぶだけといった趣向の展示をイメージしていくと、大いに裏切られます。

しかし、それは見る側の想像力次第でうれしい誤算にも変わるはずです。マーケティングや宣伝戦略の長けたブランドが幅を利かす今日、ファッションとアートの境界を行き交う彼のような才能が注目を集め続けるのは決して容易いことではないでしょう。マルジェラやマックイーンといった独自の発想でもって創造性に富んだ作品を世に送り出してきた才能がファッション界から立ち去るなか、チャラヤンには、その変わることのない立ち位置を含め、終わることのない刺激的な旅を、今後も続けてもらいたいと感じました。会期は6月20日(日)まで。

フセイン・チャラヤン ファッションにはじまり、そしてファッションへ戻る旅
会期:2010年4月3日(土)~6月20日(日)
休館日:月曜日(5月3日は開館、5月6日は休館)
会場東京都現代美術館 企画展示室 B2F
開館時間:10:00~18:00(入場は閉館の30分前まで)
入場料:一般1,200円、大学・専門学校生900円、中高生600円、65歳以上800円、小学生以下無料。20名以上の団体料金の設定あり。

▲展覧会の開催に先立ち、挨拶に立つフセイン・チャラヤン。

フセイン・チャラヤン:1994年のデビュー以来、ファッションとアートの領域を横断的に活動するクリエイターとして注目を集める。コレクションに込められる現代社会への批評を込めたコンセプトや物語。LEDやレーザー光線など最先端のテクノロジーを駆使した革新的なデザインは、英国ファッションアワードにおいて「デザイナー・オブ・ザ・イヤー」を2度にわたり受賞するなど国際的にも高い評価を得る。アート分野における活動もしばしば行い、国内では「スキン+ボーンズ」(国立新美術館)、「SPACE FOR YOUR FUTURE」(東京都現代美術館)などの展覧会で作品が紹介されている。