安積 伸がデザインしたティファールの卓上IH調理器
「コンパクトIH」

家具デザインのイメージが強いかもしれないが、ロンドンを拠点に活動する安積 伸氏は、スピーカーやラジオなどのオーディオ機器、メガホン、リストウオッチといった具合に数々の工業デザインも手がけている。その安積氏の最新作が、9月1日に発売されたばかりのティファールの卓上IH調理器「コンパクトIH」だ。操作パネルを本体底部にまとめたすっきりしたフォルムと、青緑色に光るインジケーターに特徴がある。安積氏に、開発時の思いなど話を聞いた。


ーーティファールは、調理器具や調理家電など20ブランドを有するグループセブ社の1ブランドで、開発部門はフランスにあると思うのですが、「コンパクトIH」をデザインすることになったきっかけを教えてください。

現在、Groupe SEBにはグループ全体を統括するデザインディレクターのFrédéric Beuvry氏という方がいまして、各ブランドのキャラクターに合わせて適材適所でヨーロッパ各国からプロジェクトごとにデザイナーやデザイン会社をアポイントして、デザイン開発をしています。開発やマーケティング、デザインマネージメント部門などがすべてフランスにあるため、 常にフランスとのやりとりです。


ーー「コンパクトIH」について、グループセブから依頼された内容を教えてください。

ティファールにとって全く新しい商品だったので、まず、どのようにはっきりとデザイン(商品)の特徴をつけるかが大きな課題でした。数ある同カテゴリー商品の中からティファールのものを選んでもらうために、機能性を含むデザインの魅力を明確に訴えなければならない、ということが大きな課題だったと思います。


ーーまずは、日本もしくはアジア市場に投入される商品ということですが、対象市場はデザインされる際に考慮されましたか。もし考慮されたならば、お考えをお聞かせください。

商品企画や機能性という意味では、アジア市場をもちろん意識しましたが、デザインの方法論やテイスト自体は特に「アジア向け」にデザインしていません。表現が微妙になりますが、一般のアジアの家庭生活に入っていって違和感のないように感じられる部分のヨーロッパ的美意識が、このデザインに抽出できればよいなとは考えました。


ーー今回の商品開発で、最も重要視された点は?

個人的な意識としては、ちょっと洒落ていて気持ちのよさそうな生活感というものが、このデザインを通して感じられればと思いました。
 また、ティファールの方々からは、家電量販店の棚で他社商品と並んで比べられても、「これがいい」と選んでもらえるような魅力的なものにするためにはどうすればよいかを考えて欲しいと強く要求されました。高級感を感じさせながら同時にユーザーに親しみを抱いてもらうこと。そのためには、ディティールや機能性、素材感といったものの細かな積み重ねが重要になりました。


ーーこれまでスピーカーやラジオなどの音響機器、メガホン、リストウオッチなど数々の工業デザインを手がけている安積さんですが、意外にも、白もの家電は初めてとか。これまでとの違いや新たな発見、気づきがあったら教えてください。

家具などをデザインすることが多いので、いつも人々の生活の全体像を想像しながら、「人々に憧れをもって受け入れてもらえるような生活とはどんなものだろう」と考えることがデザインの前提となっています。初めて白もの家電をデザインして感じたのは、あんがい世の中にそのような前提に立ったものが少ないということ。その製品の機能性や商品としての閉じられた世界観を、オタク的に狭く、深く、掘り下げるのではなく、この機器によって手に入るであろう気持ちよい生活がイメージできるデザイン。まず、商品企画やデザインに携わる者がそのような生活観を本当にイメージできているか、それも頭ではなく感覚的にきちんと理解できているか、というのがデザインする際の大きな鍵なのではないかと改めて感じたプロジェクトです。


ーー次回、秋の来日を楽しみにしています。ありがとうございました。

ティファール「コンパクトIH」 サイズ W300×D340×H61mm
               重さ  3080g
               メーカー小売希望価格 21,000円