柴田文江(デザイナー)書評:
佐藤雅彦 著『毎月新聞』

『毎月新聞』

『毎月新聞』 佐藤雅彦 著(中公文庫 680円)

評者 柴田文江(デザイナー)

「食べた後には新鮮な目線になる、おやつのような本」

いくつになっても私は、午後3時は「おやつの時間」だと思っている。仕事の都合で食べられないときなどは、ちょっとイライラもする。朝が遅いせいもあり残業がちなので、おやつを食べないと夕食まで持たないし、おやつの時間はそれまでの作業を客観的に振り返るのにひじょうによいと自分に言い訳している。おやつを買いに出たついでに、「食べながら読もう」と思って買ったのがこの本だ。

“新聞のなかにあるもう1つの新聞”として『毎月新聞』は毎日新聞紙上に4年にわたり月1回掲載されていた大人気のコラム。本書はその48号分が1冊にまとめられたものだ。日常の出来事から、経済、ブーム、数学、教育などをテーマに、クリエイティブディレクターである著者独自のアングルを通して、思考や感覚といった不確定なものを見事に整理整頓し、分析し、結論を出してゆく。

第38号タイトルは、「6月37日」。大学で教鞭をとる著者がグラフィックデザイナーを目指す学生を対象に「壊れていることから生まれる新しいデザイン」というテーマの課題を出した話。『6月37日』という学生作品を例に挙げて、そのグラフィックと作品タイトルの強烈なインパクトについて、単に壊れているだけの滅茶苦茶なものからは意外と迫力も面白みも出てこないが、『6月37日』という作品にはわれわれの持っている常識を破壊する力があり、このようにきちんと壊れているものは、われわれがすでに持っている枠組み(パラダイム)を破壊し、新しい枠組みを示唆すると分析している。

その後本文は続く、「政治の世界でも、お笑いの世界でもはたまたどこの業界であっても“破壊者”と呼ばれる人たちがいます。しかし、その人たちにも実は2種類あって、次の新しい枠組みを無意識に自分の中に持っている真の改革派の人と、本当はそんなものはないのに、何かありそうに見せるため、意識的に型破りなふりををしている人です、後者の人たちは、既存の枠組みの外にいる顔をして、ちゃっかり従来の枠組みの内側に安全に納まっています」。

ふとデザインに置き換えて考えてみる。デザインは、ざっくり言い切ってしまえば既存の概念にとらわれない考え方から生まれる。そういう意味では破壊的行為かもしれない。デザインを仕事にしているものとしては、常に「新しい枠組みを示唆する」タイプの破壊者でいたいと思う。自分はインパクトや目新しさを求めるためだけのデザインをしていないか? 滅茶苦茶な壊し方をしてやいまいか?

本書の全48号は、本文とともに作者オリジナルの三コママンガと「ミニ余録」で構成されており、一見するとかわいい本なのだが、物事の本質や、わかっているはず? のコトを気づかせてくれる。佐藤氏の著書には『ねっとのおやつ』(マガジンハウス刊)というアニメーションをまとめた本もある。そのネーミングにかけるわけではないが、主食ではないけれど食べると栄養になる、食べた後には新鮮な目線になる、まさにおやつのような本だ。(AXIS 104号 2003年6・7月より)

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