日本科学未来館
「メイキング・オブ・東京スカイツリー ようこそ、天空の建設現場へ」レポート

「世界一高い自立式電波塔」として建設が進む東京スカイツリー。2003年末にプロジェクトが発足し、2008年7月に着工、アンテナを支えるゲイン塔の設置が完了し、いよいよ竣工も間近だ。978日間で634メートルもの建築をつくり上げるという前代未聞のプロジェクトは、設計や施工などあらゆる点において日本の建設界として未知の領域への挑戦でもあった。

私たちは地上から巨大な塔が徐々に空に向かって伸びていく様を驚きとともに眺めてきたが、本展では実際の建設現場で誰がどのような工事を行っているのか。またそもそも東京スカイツリーのカタチがどのようにして生まれたのかを知ることができる。

▲タワークレーンの作業風景。写真/日本科学未来館

▲「ようこそ、天空の建設現場へ」エントランス。ここに置かれたクレーンは、大きなクレーンを解体するために最後まで現場に残る一番小さなクレーン。最終的には人の手で解体され、エレベーターで地上へ。写真/日本科学未来館

東京スカイツリーの建設プロジェクトは施工基本計画から施工準備、杭基礎構築、鉄骨建方、ゲイン塔リフトアップ、心柱構築という段階を経てつくられる。会場は5つのゾーンに分かれ、設計段階における設計者たちの試行錯誤を模型とともに紹介したり、実際に使用されているものと同じ重機や資材などを展示し、“天空の建設現場”で何が行われているかをわかりやすく解説している。

▲最初の展示スペースでは、古地図と現在の地図をもとに東京スカイツリーの建設地の変化を紹介する。

▲地盤、風、地震、限られた建設地、複雑な法規などの難問をクリアし、東京スカイツリーがどのような変遷を辿って現在の設計になったかを模型で解説。

東京スカイツリーは大きな地震や強風に耐えることはもちろん、地上デジタル放送を支える電波塔としての性能の高さが求められる。そこで構造のポイントとして、世界初の「心柱制振システム」が考案された。心柱とは鉄骨造のタワー本体と独立した構造体として地面から建つ鉄筋コンクリートの柱であり、地震の際はタワー本体の動きを打ち消すように揺れを防ぐ。これは法隆寺五重塔の屋根を支える心柱から発想のヒントを得たという。

▲300分の1の模型とともに東京スカイツリーの設計の特徴や安全基準を紹介するスペース。2000年に一度の強風や、関東大震災クラスの地震にも耐えるために取り入れた「心柱制振システム」などを説明する。

地上数百メートルの世界では、タワークレーンが吊り上げる鉄骨が強風にあおられ、正しい位置に持っていくことが難しい。そのため、数百キロの円盤を高速回転させる「スカイジャスター」をクレーンに取り付けた。円盤のジャイロ効果により、吊り荷を思い通りの位置に降ろすことができるという。

東京スカイツリーで採用されているさまざまな技術を、実物のクレーン(他のクレーンを解体するための最小のもの)やクレーンを操縦するコックピット、杭を打つため深さ50メートルの固い地層を切削する「ハイドロフレーズカッター」などととも解説する。

▲杭を打つため深さ50メートルの固い地層を切削する「ハイドロフレーズカッター」。

▲タワーの足元に使われている一番太い鉄骨「C1バシラ」の原寸再現模型。直径が2.3メートルで厚さは10センチ。斜材との溶接はふたりがかりで2週間かかる。

▲上空でタワークレーンを操縦する実物のコックピット。技術者は一日中ここで作業するため、内部にはトイレやエアコンも完備。鑑賞者はここに乗り込み、3D映像で上空の建設現場の様子を味わうことができる。

建設現場の足場をイメージした会場ではBGM代わりに、実際の現場での喧噪や、職人たちのかけ声、重機の音などが臨場感たっぷりに響きわたる。複数の大画面では、地上375メートルから見た360°のパノラマ映像のほか、上空の鉄骨を命綱一本で渡り歩く職人の姿、ゲイン塔を完成させて上空で喜びの笑顔を見せているスタッフたちの様子が映し出された。

▲タイクーングラフィックスによるアートディレクション、キャラクターを用いた解説パネルなどのデザインもわかりやすいと好評だ。

▲展示風景。大画面では地上数百メートルの工事現場の様子が映し出される。

昔の智恵に学ぶと同時に最新技術も取り入れるが、最後はやはり人の手と汗。会場には現場で使用されたヘルメットが並び、それぞれに書かれた日本人の名前を見ると、どこか誇らしい気持ちがこみ上げてくる。見上げる人々の大きな期待を集めながら、2012年2月末の竣工に向けて、真夏の上空では今も最終段階の作業が進んでいる。(文・写真/今村玲子)

▲展示されているヘルメットは建設現場で実際に使用されたもの。夢の実現のために取り組むスタッフたちの“顔”が見えるようだ。

▲会場では科学コミュニケーターによるミニトークも開催。東京スカイツリーが揺れないための工夫などを解説する。


「メイキング・オブ・東京スカイツリー ようこそ、天空の建設現場へ」

会  期: 2011年6月11日(土)〜10月2日(日)

会  場: 日本科学未来館 1階 企画展示ゾーンa

開館時間: 午前10時〜午後5時(入館は閉館時間の30分前まで)

休 館 日: 毎週火曜日(祝日、夏休み期間は開館)
     *ただし7月26日〜8月31日は開館

入 場 料: 大人 1,300円、18歳以下 500円




今村玲子/アート・デザインライター。出版社を経て2005年よりフリーランスとしてデザインとアートに関する執筆活動を開始。現在『AXIS』などに寄稿中。趣味はギャラリー巡り。自身のブログはこちらまで。