「グッドデザインエキスポ2011」レポート その1
審査委員 深澤直人 佐藤卓による「今年の審査の方向性」

日本デザイン振興会が主催する「グッドデザインエキスポ2011」が8月26日(金)〜28日(日)の3日間、東京ビッグサイトで開催された。本展は、2011年度グッドデザイン賞 二次審査会終了後の会場をそのまま一般公開するもので、10年前から開催されているデザインイベントである(Gマーク制度そのものは1957年に創設)。約3,200点の応募作品の中から書類選考を通過した約2,000点(国内外の企業・団体、教育機関など約1,000社)が広大な会場に15のカテゴリーで展示され、60名近くの審査員による審査を受けた。

会場の展示照明にはLEDを使用し電気使用量を前年比53.6%減。中央のメインステージ頭上に設置された直径7メートルのインスタレーション「GOOD GLOBE」も1万4000個のLEDによるもので、薄膜太陽電池で発電。

初日は午後から関東地方を襲った豪雨のため開場時間が30分遅れるといった影響も出たが、出展関係者のほか学生やデザインに関心のある多くの来場者で会場は熱気に包まれた。二次審査の結果は11月に発表される。約1,000点のグッドデザイン賞のほか、その中から「グッドデザイン大賞」(内閣総理大臣賞)、「グッドデザイン金賞」(経済産業大臣賞)、「グッドデザイン・サステナブルデザイン賞」(経済産業大臣賞)、「グッドデザイン・中小企業庁長官賞」、「グッドデザイン・日本商工会議所会頭賞」などの特別賞が選ばれる。

グッドデザインエキスポ2011の記者会見で本展の審査の方向性などについて語る審査委員長 深澤直人氏(右)と審査副委員長 佐藤 卓氏。

昨年から審査委員長を務めるデザイナーの深澤直人氏は審査のあり方について次のように説明した。「昨年から引き続き、審査の指針や賞の運用について話し合っている。今年は審査テーマを『適正』というキーワードで表した。震災や発電所の問題があり、私たちは信頼していたものが崩れるという体験をした。今一度、生活の適正とは何か、現在の適正が今後もそうなり得るのかということを考えていく必要があるだろう。審査員には『我々の生活に適正であるかどうか』という視点で審査するよう伝えた」。また、今年の出展傾向について同氏は、「華々しい、刺激的なものはない。デザインの傾向が少し変わってきていると思う」と分析。「純粋にカタチが美しいようなものではなく、むしろ使われ方、仕組み、ソフト、生活の仕方などの提案が目立つ。それはデザインというものの考え方が変化していることを表しているだろう」。

イヤーブックとトロフィー。副委員長を務めるグラフィックデザイナーの佐藤 卓氏は、昨年から制作を担当しているイヤーブックについて言及した。「賞を審査したり、それを多くの人に見てもらうといった役割のほかに、重視しているのがイヤーブックの制作。これを同じフォーマットで毎年作り続けていくことで、50年後にそれが日本のデザインのアーカイブとなる。ものづくりがアジアにどんどん移っていく中で、日本の強みは企画力とデザインだ。イヤーブックは今の日本のデザインの状況を知るために重要な資料となるはず」。

深澤氏が語ったように、実際に意欲作が増え、年々プレゼンスが高まっているのがサービスやブランド、ビジネスモデルの分野、コミュニティ・地域社会の分野、そしてインターフェースやソフトウェアの分野である。製品では、ユーザーの使い方や体験を改めて見なおす動きが目立った。それが軽量化・モビリティ化を進めたり、工業製品にオリジナリティという価値を付加するといった傾向にもつながっている。エコロジーやリサイクル素材は配慮して“当たり前”となり、もはや前面に押し出すことは少ないようだ。

次回は今回の展示からいくつかの作品を紹介していきたい。(文・写真/今村玲子)

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今村玲子/アート・デザインライター。出版社を経て2005年よりフリーランスとしてデザインとアートに関する執筆活動を開始。現在『AXIS』などに寄稿中。趣味はギャラリー巡り。自身のブログはこちらまで。