棚の持つ概念の真逆を目指したシェルフ
稲垣誠「find it !」

「不屈の精神・弛まぬ努力・確たる自信」

「find it!」は、「一枚の面・固定・整理整頓」という、棚の持つ当たり前の概念の真逆を目指した新しいシェルフです。「多面」「変化」「乱雑」に「アクティビティ」を加えた4つのコンセプトのもと、これまでの概念を覆す挑戦的なシェルフづくりを目指しました。

find it!は回転機構を持ち、優雅かつダイナミックに自由自在に形を変えます。それを実現するために壁となったのは、いかなる形状でも自立する構造、人が運べる重量、滑らかな回転機構、各段のたわみゼロ、メンテナンスが可能、という5つの与件。当初、すべてを成立させるのは不可能に思えました。

案の定、すべてを叶える夢のようなひらめきなどあるはずもなく、来る日も来る日も、回転機構を探し、構造計算とデザインをすり合わせ、モックアップをつくっては壊し、出口のないトンネルにいるようでした。そんななか、あるとき気付いたのが、すべてを完璧に網羅する答えはなく、あらゆる条件を積み上げ、そのなかで求められている最適解に最も近い選択をしていくことがゴールだということ、悩んだ日々のなかで、明確な指針と確かな根拠に裏打ちされた必然性が得られたということです。

find it!と過ごした時間から、実現が不可能と思われるような要望にも、積み重ねた確かな情報と創意工夫によって応えられるということを学びました。これから先、どんな難題にも真正面から取り組む情熱を忘れずにいたいと、そんなことを感じたシェルフづくりとなりました。(文/伊藤真琴、文化空間事業部 事業企画部 プランナー)

「find it !」
デザイン:稲垣 誠(丹青社)
協力会社:児山工芸(株)、(有)ラフィーネ・メタル ほか
撮影:尾鷲陽介

展示や内装の設計・施工を手がける丹青社が、2009 年から新入社員教育の一環として行っている「SHELF制作研修」。本連載では、研修に参加された丹青社の方々に、それぞれの作品について語っていただきます。また、この研修成果については、20119月27日(火)〜10月5日(水)までアクシスギャラリーで開催された「人づくりプロジェクト SHELF展」において、展示報告されました。