リビングデザインセンターOZONE
「IE≈HOME 日本の家と英国のホーム」展、レポート


約800万人の人口のうちの約270万人、住民の3分の1が外国人と言われるロンドン。日本人として生まれ育ったバックグラウンドと英国での生活のなかでの経験が、新しい住宅のあり方を考えるときにどう生かされるか。「IE≈HOME展」は、英国で建築教育と実務経験を積んだ日本人建築家たちによる住まいの提案である。

IE≈HOME展は、2010年7月に開催されたロンドン国際建築展のために集まった金道 晃氏、大場徳一郎氏、垣副弘樹氏、垣副正樹氏、隅 迪子氏の5名に、新たに松繁宏樹氏、辰野しずか氏を加えたTEAM IE≈HOMEの主催で、リビングデザインセンターOZONEにおいて2月14日まで開催中である。

タイトルの「IE≈HOME――日本の家と英国のホーム」は、「家」と「ホーム」という意味をほぼ同じく訳される2つの言葉の文化的な微妙な違いに注目してつけられた。ロンドン国際建築展の凱旋展示でもある本展、メンバ-の半数が現在は日本に戻って設計活動を続けており、より厚みを増した視点で日本人の暮らし方と街を見つめ直している。

▲展示風景

内容は3つに分類される。1つは、ロンドン国際建築展に際して、建築家5名がそれぞれの視点でロンドン市内の敷地を選び、提案した5つの家。2つ目は、東京展のために提案する、古くからの長屋が残る月島のシェアハウス。3つ目は、ロンドン大学バートレット校の大学院生による東北地域復興プロジェクト。これらが柔らかな布で仕切られたなかに展示されている。

「月島の家」は、新しい高層アパートと長屋の入り混じる東京・月島における長屋の改修計画である。フラットシェアというロンドンに多く見られる暮らし方を、日本の木造集落に持ち込んだものだ。英国は壁を共有して長屋風につながる特有のテラス・ハウスと呼ばれる住宅があり、そのなかで他人同士が生活を共有するために内部をリフォームをしながら、何百年も続く外観は保存するという住まい方にヒントを得ている。東日本大震災後にシェアという意識が広がりつつある、これからの住まいの考え方にも緩やかにつながっているようにも思われる。

▲月島の家

ロンドン大学バートレット校は、TEAM IE≈HOMEのメンバーである隅氏が学び、現在講師を務める建築大学である。昨年秋に、同行の大学院生19人とともに日本を訪れ、東北を視察した際の記録と、被災地を対象に提案を行う学生プロジェクトの一部を紹介。仙台駅、仙台空港、閖上、荒浜、仙台港を周り、東北大学の津波工学研究者である今村教授の講義を踏まえた、海外の建築学生から見た東北復興の観点が興味深い。

▲東日本大震災復興プロジェクト

さて、本展示の発端となった「ロンドンに散らばる5つの家」は、40カ国が参加したロンドン建築国際展のなかで、最も名誉あるシルバーピジョン最優秀賞をとったことで話題を集めた作品である。金道氏の呼びかけによって、2010年当時ロンドンで活動していた若手建築家5名が集まり、「家とは?」という問いかけに応えた。

▲左上から時計周りに、対岸線をつなぐ二世帯住宅(隅 迪子)、坪庭に導かれる空間(垣副正樹)、都心の巣(垣副弘樹)、四つの庭の家(大場徳一郎)、光とあいまいな空間(金道 晃)

彼らの作品は、日本的な家のあり方をロンドンの敷地で考えるなかで、意識的にも無意識的にも日本らしさが表現されている。例えば、高齢化社会に伴い一般化した二世帯住宅という日本特有の親子関係や、日英に共通する職住混合の現代的な都心生活に焦点を当てたもの。神社の参道、縁側、緩やかにつながる内と外の関係など、伝統的な空間体験を取り入れたもの。借景、坪庭に持ち込まれた日本の四季、光と影といった時間の流れが織りなす視覚効果をねらったもの。

5つの家は、実務経験を経たリアリティのある図面と模型で発表され、英国日本大使館の展示では模型越しに多くの会話が生まれた。また、英国の建築大学では特に設計プロセスの段階での模型の素材にも注意を向けられることがあり、扱う材料の特性を生かしたユニークな和の表現も見ることができる。

▲親子水入らずという言葉を墨流しの手法になぞってつくられた三世帯住宅のファサードのパターン(隅 迪子)

2月4日には、同展のオープニングに併せて、「How to make Japanese House(日本の家のつくり方)」の出版を控えたノイシンク・カテライネ氏(オランダ出身、建築家/建築ライター)の講演会を開催。カテライネ氏の日本での調査を通して、海外の建築家が見た日本の現代住宅の良さや課題が講じられ、本展のコンセプトと重ねられた。同著は世代を意識して選ばれた21人の日本人建築家へのインタビューを含んでおり、個人の要望がひじょうにユニークなかたちで実現している日本の住まいの将来にポジティブな印象を与えている。

英国経由で日本人としての住まいを考えるIE≈HOME展。ロンドン・東京をつなぐ若い世代の建築家TEAM IE≈HOMEの今後の活動にも期待をしたい。(文・写真/藤井宏水)


「IE≈HOME――日本の家と英国のホーム」

会 期:2012年2月2日(木)~2月14日(火)10:30~19:00(水曜休館)

会 場:リビングデザインセンターOZONE 3階OZONEプラザ
    (東京都新宿区西新宿3-7-1 新宿パークタワー内)

入場料:無料

主 催:TEAM IE≈HOME


藤井宏水(ふじい・ひろみ)/設計事務所勤務を経て、フリーランスとして展覧会の企画、編集、執筆活動を開始。ロンドン滞在の経験を生かし、ヨーロッパと日本をつなぐような数々のプロジェクトに携わる。