vol.24
「バグ・ア・ソルト」

筆者が数年前にタンザニアを訪れた際、ツエツエバエがサファリツアーの四輪駆動車を追いかけてきて窓から入り込み、そのしつこさに閉口した覚えがある。一般的なハエよりも一回り大きく、吸血性のツエツエバエは、サバンナで生き抜くために、ともかく獲物を見つけたら諦めずに食らいついてくる。しかも、そのスピードは、悪路を走るクルマよりも確実に速いのだ。

しかし、狭い車内で殺虫剤を使い続けるのは健康に良くない。そこで、日本に戻ってから、現地のガイド兼ドライバーの方に使ってもらおうと、電撃式のハエたたき(格子状の金属線にハエが触れると高電圧によりショック死させる)を送ったことがあった。

最近の日本では、昔ながらのハエ取りリボンや、虫を凍らせて退治するスプレーなど、毒性のある成分を使わない駆除方法が見直されてきたが、アメリカでも化学的な殺虫剤の影響を懸念する動きが出てきている。その流れで、サンタモニカ在住のロレンゾ・マッジオーレというデザイナーが考え出したソリューションが、このSF映画に出てくるレーザー銃のような「バグ・ア・ソルト」だ。

クラウドファンディングサービスの「インディゴーゴー」を利用して製造資金を集めたこの製品は、市販時の価格は公表されていないものの、資金提供者ならば最低30ドル(送料込み)で入手できる。

ユニークなのは殺虫の仕組みであり、わずかひとつまみ程度の塩をバネ仕掛けにより超高速で射出し、その衝撃でハエを死に至らしめるようになっている。射程距離は約60cmで、小瓶1つ分の塩を充填すれば約50回の発射が可能だ。デザイナーのロレンゾは、まず自身が中国に出向いて現地の技術者とこの射出機構を実現し、それから外観のデザインを仕上げていったとのこと。

火も電気も毒性のある化学物質も使わず、遊び心のあるデザインで害虫を退治するバグ・ア・ソルトは、もちろんタンザニアでも活躍してくれそうだ。




大谷和利/テクノロジーライター、東京・原宿にあるセレクトショップ「AssistOn」のアドバイザーであり、自称路上写真家。デザイン、電子機器、自転車、写真に関する執筆のほか、商品企画のコンサルティングも行う。近著は『iPodをつくった男 スティーブ・ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』『43のキーワードで読み解く ジョブズ流仕事術:意外とマネできる!ビジネス極意』(以上、アスキー新書)、『Macintosh名機図鑑』『iPhoneカメラ200%活用術』(以上、エイ出版社)、『iPhoneカメラライフ』(BNN新社)、『iBooks Author 制作ハンドブック』(共著、インプレスジャパン)など。