vol.27
「ポピネーター」

アメリカのポップコーン専門メーカー、ポップコーン・インディアナ社は、赤をテーマカラーにしたパッケージやさまざまなフレーバーのバリエーション開発によって、市場での差別化を図ってきた。ところが1つだけ、ライバルメーカーはもちろん自分たちも、当たり前のこととして変えようとも思わない要素があった。

それは、袋から直接取り出すにせよ、皿やボウルに空けてつまむにせよ、ポップコーンを指で口のところまで持っていって放り込むという食べ方のスタイルだ。例えば、同じスナック菓子でもポテトチップスには、読書中やゲーム中などに指が油でべとつくのを防ぐことができるマジックハンドのようなグッズも販売されている。ポップコーン・インディアナ社では、ポップコーンを食べるという体験自体をより楽しく、意外性のあるものにすることで、同社の取り組みが注目を集め、自社製品のファンが増えるのではと考えた。

この結果生まれた「ポピネーター」は、ポップコーンにとってのビールサーバーやガムボールディスペンサーのような存在だが、いっさい手を触れずに「ポップ」と声をかけるだけで一粒が飛んでくる。

そのメカニズムは、人間の耳と同じように音のする方向を感知できるバイノーラルタイプのステレオマイクによって声の主の位置を特定し、ポップコーンを射出する角度や強さを調整するというもの。

当然ながら、ポップコーンは粒ごとに形や大きさが微妙に異なるため、空気抵抗の影響で射出後の軌道にも多少の揺らぎが生じる。しかし開発者は、そこをうまくカバーして口で受け止めるのも面白さの一部だと捉えた。

会議中でも、両手がゲームコントローラーの操作で塞がっていても、声だけでポップコーンが食べられるのは、体験をデザインするという意味でとても興味深い。今はまだプロトタイプだが、製品化されたらぜひ自宅にも導入したい一台だ。




大谷和利/テクノロジーライター、東京・原宿にあるセレクトショップ「AssistOn」のアドバイザーであり、自称路上写真家。デザイン、電子機器、自転車、写真に関する執筆のほか、商品企画のコンサルティングも行う。著書は『iPodをつくった男 スティーブ・ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』『43のキーワードで読み解く ジョブズ流仕事術:意外とマネできる!ビジネス極意』(以上、アスキー新書)、『Macintosh名機図鑑』『iPhoneカメラ200%活用術』(以上、エイ出版社)、『iPhoneカメラライフ』(BNN新社)、『iBooks Author 制作ハンドブック』(共著、インプレスジャパン)など。最新刊に『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか』(講談社)がある。