東京オペラシティアートギャラリー
「新井淳一の布 伝統と創生」展

テキスタイルプランナーとして数々の先鋭的な布を生み出してきた新井淳一さんの60年に及ぶ仕事を紹介する展覧会が、東京オペラシティ アートギャラリーで開催中だ。

新井さんは織物の産地である群馬県桐生に生まれた。祖父が撚糸業を、父が織物業を営むという布づくりに囲まれた環境で育つ。家業を受け継ぐが、1966年に34歳でテキスタイルプランナーとして独立。72年に山本寛斎のコレクションのための布づくりを行ってから80年代にかけて、イッセイミヤケやコム デ ギャルソンといったファッションブランドと共同で斬新な布を次々と開発していった。

▲ 展覧会オープニングでの新井淳一さん。「布というものは固まっているものではなく、時に風や光によって常に変化するものです。今回の展示では、布は横たわり、あるいはつり下げられることでさまざまな形を見せてくれるでしょう」。

本展では、会場を3つのセクションに分けて、70年代から今年の最新作までの布約60点のほか、新井さんのものづくりを伝えるさまざまな資料を展示している。

セクション1では、新井さんが新しい技術を積極的に採り入れて開発したさまざまな技法やその繊細な手仕事を紹介。鑑賞者は「いったい、どうやってできているの」と見て驚き、工程や糸の秘密を知って驚き、そして触れてその柔らかさや心地よさに驚かされることだろう。

今回、パリ拠点の建築家ユニットDGTのメンバーである田根 剛さんによる会場構成が、新井さんの布の魅力を存分に引き出している。セクション1では、暗い空間に35種類の布を水平に並べた。各展示台の上にメッシュで起伏をつくり、その上に布を置くことで、まるで彫刻のようにさまざまな角度から眺めることができる。

さらにその上に落とす照明の光量を自動的に変化させることで、複雑な工程によってつまみ、ひねり、しわを与えられた布の光沢や色彩、陰影が刻々と映り変わる。一枚の布が生き物のように表情を変えていく様子は、新井さんが「自己組織化」と呼ぶ布づくりの哲学を体現しているといえるかもしれない。

▲ セクション1は「自己組織化」と題され、素材や工程の異なる35種類の布を展示。新井さんは布づくりにおいて、繊維自らが組織や構造をつくり出す“自己組織化”という自然の摂理を重視する。「使用する材料、技術、それぞれの持つ特徴や能力に気付き、それら自身の力を借りて、まだ見ぬ布が自ら生まれるのを待つのです」(会場のパネルより)。

▲ プリーツI 2007
ポリフェニレンサルファイド、アルミニウム(スリットヤーン)

▲ クラッシュプリーツII 1990-95
ポリエステル、アルミニウム(スリットヤーン)
メルトオフ、真空熱転写、絞り染め、クラッシュプリーツ加工

▲ 銀の壁I 1991
ポリフェニレンサルファイド、アルミニウム(スリットヤーン)
クラッシュプリーツ加工

▲ アルミや純銀を真空蒸着したマイクロスリット糸。

▲ 新井さんが新しいアイデアなどを書きとめたスケッチ。

▲ 万華鏡III 1992
ポリエステル、アルミニウム(スリットヤーン)
絞り、メルトオフ、真空熱転写

▲ パフ 1979
ポリエステル、ウール
ジャカード、二重織、縮絨

▲ 氷河 2000
ウール、ナイロン、アルミニウム(スリットヤーン)
絞り、縮絨

続いて「精神と祈り」と題されたセクション2では、3つのゾーンで大量の布を用いたインスタレーションが展開される。ここでは鑑賞者は天井からつり下げられた長い布を見上げる格好になる。「ブルーフィン」や「氷河」「稲妻」「アフリカン絞り」といったタイトルからもわかるとおり、イメージソースとなったのは新井さんが世界各地で出会った自然や民族文化だ。

決して技術ありきではない。新井さん自身が目の当たりにし、心動かされた壮大な世界観をかたちにするために、新しい技法や素材を生み出してきたことが伝わってくる。そんな布だからこそ、デザイナーや身につける人の想像力をかきたて、「ぜひ使ってみたい」「ぜひまとってみたい」と思わせるのかもしれない。

昨年80歳を迎え、「片肺を失い、胃袋も取ったんです」と打ち明ける新井さん。「大きなことはもうできないけれど、夢だけは大きく見ています。夢のなかで思い描いていたことの1つが、このような展示のなかで実現している」とも。「それでも私自身、明日この展示を見たらまた捉え方が変わるかもしれない。布とはこういう見せ方をすることができる、まだまだ可能性を秘めていることを感じながら皆様にも展示を楽しんでいただけたら」と展覧会への期待を語った。(文・写真/今村玲子)

▲ 「精神と祈り」と題したセクション2。天井から渦状につされた高さ5メートル近い新作の布によるインスタレーション「マワリテメグル」。

▲ ブルーフィン 2004
ナイロン、酸化チタン(スリットヤーン)
絞り染め、プリーツ加工

▲ プラクシス 2013
ナイロン、酸化チタン(スリットヤーン)/ポリエステル、酸化チタン(スリットヤーン)
真空蒸気セット

▲ 最後の通路では、1970年頃から世界各地で撮影したスライドプロジェクション698点を床に投影する。


「新井淳一の布 伝統と創生」

会 期:2013年1月12日(土)〜3月24日(日)
    月曜休

会 場:東京オペラシティ アートギャラリー

入場料:一般1,000円、大・高生800円、中小生600円




今村玲子/アート・デザインライター。出版社を経て2005年よりフリーランスとしてデザインとアートに関する執筆活動を開始。現在『AXIS』などに寄稿中。趣味はギャラリー巡り。自身のブログはこちらまで。