東京ビジネスデザインアワード2012 提案最終審査会 レポート

第1回東京ビジネスデザインアワードの提案最終審査会と表彰式が1月29日、東京ミッドタウンで開催された。本アワードは東京都が主催し、公益財団法人日本デザイン振興会が運営する企業参加型のデザインコンペ。タイトルに“ビジネス”がつくように、都内の中小企業がもつ技術や素材をテーマに、デザインの力でビジネスの発展につながるような用途や商品の提案を募集した。

昨年5月に参加を希望する都内の企業からテーマを募集し、審査の上15件のテーマ(企業)を決定。8月からデザイン提案を募り、200件が寄せられた。そのうち一次審査を通過したなかから、企業とデザイナーによる11組のマッチングを成立(11月)。そこから各組は約2カ月ほどかけて提案のブラッシュアップやモデル制作に取り組み、今回の最終審査に臨んだというわけだ。

▲審査委員長を務めた廣田尚子氏(プロダクトデザイナー)
「東京都の活性化のためには都内の中小企業が元気になることが重要。このデザインコンペではビジネスに重きをおき、デザインの側から用途提案することでビジネスのあり方が刷新していくことを目指したい」。

この日は、各組4分の持ち時間でプレゼンを行った後、8人の審査委員が公開討議形式で各組と質疑応答を交わした。その後審査員のみ別室での選考によって「最優秀賞」「優秀賞」を決定した。

今回最優秀賞を受賞したのは、

最優秀賞
「養殖中のマグロを保護するための“光る”網」
鈴木啓太、鍵田真在哉、岡藤空、橋詰友維(法政大学デザイン工学部 大島研究室)

サンクロスが開発した微小LEDチップを縫い込んだ電子繊維製品の新たな用途として、鈴木啓太さんら学生チームが提案したのは養殖場で使用する“光る網”だ。発表者の鈴木さんによると、マグロ養殖では網への衝突死が主な原因で、出荷までに半数が死ぬという。彼らが提案する「ライトネット」は微小LEDチップを縫い込んだ縦一本のユニット。これを網に使用することでマグロが迂回する目印となり、死亡数が減らせるのではないか、と説明した。

▲提案についてプレゼンする鈴木さん

▲網にタテ方向のユニットを装着する

▲メンバーの一人、鈴木啓太さんは、「ずっとマグロをやってきたので、今日はマグロを食べたいです」とコメントし、来場者を笑わせた。

審査委員長の廣田尚子氏は、「一次審査の時から魅力的でスケールの大きい提案だった。その分技術的な根拠や生態系への影響、開発期間の長さなどまだ不明なことも多く、審査では最後の最後まで揉めました。とはいえ、デザインの視点から生物の保護や食に対するメッセージ性の高い提案として評価しました」と話す。

サンクロスの担当者、「(学生の提案は)我々の想定とちがったが、創造的で大胆、そしてやりがいがある。マグロの衝突死は水産の大きな課題でもあり、一日でも早く商品化して世の中に貢献したい」と語った。

続いて優秀賞を受賞したのは、

「磁力を利用し安全に着脱可能な、壁面接着型プランター」
後藤英文(シェルデザイン)

「景観だけでなく必要な情報も守り、緊急時に役立つシート」
中島修 他7名(ものづくり集団 INNOS)

の2作品である。

「壁面接着型プランター」は、オフィスビルや商業空間などのガラス壁面に、強力な磁力の“レアアース永久磁石”を使ったフックを取り付けて緑化するという提案である。審査員からは安全性や構造に関する疑問が出た一方、プランターのリースやディスプレイなど今後さまざまな販路があり得ると評価された。

▲優秀賞「磁力を利用し安全に着脱可能な、壁面接着型プランター」
「ガラスを多用した硬質で冷たい印象の建築空間に植物を飾りたい」と提案者の後藤英文氏。

「緊急時に役立つシート」は、電柱で使用されている張り紙を防止するシボ加工を施したシート素材を災害時の標識として活用するアイデアだ。応募したデザインチーム「イノス」は津波の危険度を知らせるピクトグラムを制作し、これをシートに転写して公共施設などに掲示することで日頃から市民の防災意識を高めていきたいと説明した。

▲優秀賞「景観だけでなく必要な情報も守り、緊急時に役立つシート」

受賞作は一企業のビジネスにとどまらず、産業への貢献や社会的な問題解決といった大きなメッセージ性をもった提案であった。残る8件も、ひとつの技術がデザインの視点が加わることによって全く違う分野で飛躍的に展開するという意欲的な内容がそろった。

▲「ユーザーの創造性を活かせる、塗って“はがせる”絵の具」
太洋塗料 × 小関隆一
水系はくり塗料は、通常は基材表面の汚れをとる工業用途で使われている。デザイナーの小関隆一氏は「普通に自分で使ってみたい」とペンタイプの商品展開を提案。ラベルやパッケージなど含めクオリティの高い作品として審査員から評価された。

▲「薄板板金加工技術を生かした、ユーザーが仕上げる“板金”製品」
浜野製作所 × 上島弘祥(プロダクトデザイナー)
板厚0.5ミリ〜5ミリ程度の精密加工技術を生かし、ユーザーが切り抜いて使えるアクセサリーを提案。「優れた技術を“BANKIN”として世界に広く訴求していけたら」と上島氏。

▲「利便性だけでなく新たな用途を生み出す、“折り畳める”紙袋」
金森製袋紙工 × 福井直士(建築家)
福井氏は教育機関の学校訪問などで大量に使う紙袋のニーズをキャッチし、「伸縮し、長く使ってもらえる紙袋」として開発した。力の流れに合わせて布を貼り合わせているラグビージャージがヒントとなったという。

▲「乳白あぶり出し技法による、点灯時も消灯時も美しい照明器具」
廣田硝子 × 玉置潤平(インテリアデザイナー)
大正時代から続く硝子成形技法を使ってLED照明に展開。「東京でしかできない照明を世界に伝えていきたい」とデザイナーの玉置氏。

参加企業のほとんどは外部デザイナーとの協業は初体験だったという。「今まで決まった業界の決まった人しか使っていなかった。一般にも出していけると聞いてわくわくしている」(太洋塗料)、「これまで産業の“最後尾”の存在だった。この出会いがきっかけとなって“最先端”へいけることがうれしい」(浜野製作所)、「今度は自分たちがメーカーに提案できる。全社あげて取り組んでいきたい」(日本ラベル)といった喜びの声や意気込みが次々と述べられ、会場は熱気に包まれた。

今回発表された11件はすべて「テーマ賞」が授与され、今後も東京都による広報支援やグッドデザイン賞の一次審査免除など、事業実現に向けた継続的な支援を受けられることになっている。

▲受賞者の記念撮影
左から、
東京都 産業労働局長 中西充氏
受賞者代表 鈴木啓太氏、後藤英文氏、中島修氏
審査委員長 廣田尚子氏

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